2007年03月23日「久世塾」 久世光彦著 平凡社 1680円
先ごろ、亡くなられたドラマ・プロデューサーの久世光彦さん。
彼は脚本家志望者を300人ほど集めてセミナーというか、教室みたいなことを1回だけやってたんですねぇ・・・。
で、本書はその内容をアンソロジーでまとめたものです。
基本的には講義をそのまま収録というか、文字起こしされてるんで、読みやすいですし、なんといっても臨場感がありますね。
久世さんというのは、私の世代だとたぶん「時間ですよ!」とか「寺内貫太郎一家」とかそういうのね。このほかにも、向田邦子さんを数多く演出されてましたねぇ。
「テレビっ子バンザイ!」では、以前、「虹子の冒険」というDVDをご紹介しました。これ、夏目雅子さんの主役第1号ドラマであり、久世さんにとっても独立第1号作品なのよ。原作はつのだじろうさんなんだよ。
向田ドラマについてはほとんどDVDで見てますけど、なんというか、視点がすばらしいんだよね。よくこんなとこ見てるな、という観察眼ね。これはあの人の独壇場でちょっと追随を許さないとこがあります。
久世さんと向田さんの対談も文庫で出てますけど面白い。
さて、基本的に脚本家志望者相手の講義ですけど、ビジネスパーソンにも意外と勉強になります。
「七人の孫」というドラマがありました。これ、本邦初の1時間ドラマなのね。1時間なんていまじゃ当たり前だけど、昔は特番でないかぎりありえないボリュームなのよ。内容は、主役の森繁久弥さんには孫が七人いる、というドラマ。そのまんまなんだけど。
で、ある日、突然、夜中の撮影中に森繁さんが「ラーメンの屋台でやろうよ」なんて言い出しちゃった。
以前、「通勤快読」で潮健児さんの「星を喰った男」という本を紹介しました。この中で森繁さんは天才だと言ってる下りを載せました。
次の文章がそれね。
天下のモリシゲがまだ自分の楽屋も持ってない頃の話。この頃、日劇小劇場で森繁久弥さんと2人でコントやってたんだよ。
で、潮さんはモリシゲ先生の頭の回転の速さにビックリしちゃいます。その場の即興でパッとコントを作っちゃうわけ。
「そうだ、俺が強盗になるから、潮ちゃん、紳士になってよ。まず、潮ちゃんが舞台の中央に出てよ。で、俺がピストル突きつけるから、手を挙げて。そして、脱げっていうから、服脱いで俺に渡す。逆に、潮ちゃんは俺の服を着るんだよ。
で、服着る時にはピストルが邪魔だから服に入れちゃうだろ。すると、潮ちゃんはピストルの入った俺の服を着ちゃうわけ。で、こんなのが入ってましたって、俺にピストルを突きつけるわけさ。で、俺がビックリして手を挙げて暗転。こんな段取りでどう?」
こんなのが次から次へと出てくるわけ。栴檀は双葉より芳しだよね、やっぱ。
やはり、ドラマ制作の現場でも同じでね。森繁さんが言うとそりゃ面白そうだなとみなが思っちゃう。
で、チャルメラの音を頼りに赤坂から六本木まで走り回って見つけてきた。そのままスタジオに入れちゃう。で、芝居がはじまる。やっぱ、そんだけの苦労をしただけのものがあがるわけよ。
屋台でいっぱいやりながら、親父に向かってぶつぶつと愚痴を言う。
「若い嫁が薄情で・・・」なんてね。
で、今度はそこにお手伝いさんを登場させたい、と言い出す。
「その肩にすがって田舎出のお手伝いさんとよろけながら家に帰るというシーンをロケで撮りたいんだ」
当時、久世さんは助監督。で、文学座から3人の女の子を呼んだわけ。オーティションよ。
中に1人、おてもやんみたいなつんつるてんの着物に下駄履いてるのがいるわけ。で、この子と森繁さんとの掛け合いが絶妙に巧いんだ。森繁さんがめちゃ気に入って、このお手伝いさんがレギュラーになっちゃった。
それ、いまの樹木希林さんなのね。彼女は、このドラマで出てきた。一発でチャンスをものにしたのよ。
久世さんが師匠だと思ってるのは、この森繁さんなのね。そうか、これほどの人がそこまで惚れ込んでいるのか、そういえば、「大遺言」も連載してたな。けど、森繁さんの大遺言だったはずなのに、本人が先に亡くなったな、とか考えたりしてね。
で、いま、森繁さんの本とDVDをかき集めてます。また、ここでご紹介しますよ。読書というのは、こうやって「縁」をつないでいくもんなんだな。
さて、久世さんだけじゃなくて、この塾では現役の脚本家にも講義してもらってます。たとえば、内舘牧子さん、大石静さん、青柳祐子さん、それに竹山洋さんとかね。
竹山洋さんてNHK大河ドラマの「秀吉」、映画だと「ラストサムライ」の人ね。
「メロディ」(TBS・キョンキョン、小林薫、玉置浩二等出演)という脚本書いたとき、久世さんから指摘されちゃう。
「おまえね、これ、一晩で書いてねえだろ」
「3日か4日」
「一晩で書けよ、シナリオなんて1時間ものに2日も3日もかけんじゃねぇ」
ところが、奥山光伸さんには、
「奥ちゃん、ドラマは一晩で書くな!」
奥ちゃんというのはバラエティ作家。バラエティは一気に書くから。つまり、人を見て法を説いてるわけさ。
竹山さんは、鉛筆を10本並べて、よ〜いどんで書き出すタイプ。1本で10枚書く。すると、100枚書けるわけ。これで1時間もののドラマができるって寸法よ。
「言葉のミューズというか、神様が乗り移ったら書いて書いて書き尽くせ」と言ってるね。
「正直に書く。いいシナリオを書こうと思うから楽にならない。いいシナリオなんてだれにでも書ける。律儀や正直がいちばん大切」だってさ。
いいものを書くぞ、と気合いが入りすぎるといいものか書けない。自分の力を見せつけてやろうと思うと、「おまえ、芝居が硬いんだよ。もっと柔らかく書けよ」と指摘されちゃうのね。
いま、テレビ局じゃ、やらせとかインチキとかいろいろ騒がれてるよね。けど、どうせテレビじゃん。演出は必ずあるし、「あるある」なんてあんな番組を真剣に見てる人間がいるってのが、私には信じられないんだよな。
プロデューサーが視聴率ばかり優先してるって非難されてるけど、数字は命なのよ。だって、ドラマにしたら、失敗が3回も続くと異動だし、「あいつは視聴率とれないよ」と俳優なんて主役を降ろされちゃう。主役からすべり落ちたら、復活は至難の業だからね。すると、CMも来なくなっちゃう。となると、プロダクションも困るわけ。
つまり、視聴率1つにこんだけの人の人生がかかってるわけさ。こりゃ、懸命になるわけだよ。数字が悪けりゃ終わりなの。
ほかにも、小林亜星さん、糸居重里さん等々も出演というか、収録されてます。300円高。
彼は脚本家志望者を300人ほど集めてセミナーというか、教室みたいなことを1回だけやってたんですねぇ・・・。
で、本書はその内容をアンソロジーでまとめたものです。
基本的には講義をそのまま収録というか、文字起こしされてるんで、読みやすいですし、なんといっても臨場感がありますね。
久世さんというのは、私の世代だとたぶん「時間ですよ!」とか「寺内貫太郎一家」とかそういうのね。このほかにも、向田邦子さんを数多く演出されてましたねぇ。
「テレビっ子バンザイ!」では、以前、「虹子の冒険」というDVDをご紹介しました。これ、夏目雅子さんの主役第1号ドラマであり、久世さんにとっても独立第1号作品なのよ。原作はつのだじろうさんなんだよ。
向田ドラマについてはほとんどDVDで見てますけど、なんというか、視点がすばらしいんだよね。よくこんなとこ見てるな、という観察眼ね。これはあの人の独壇場でちょっと追随を許さないとこがあります。
久世さんと向田さんの対談も文庫で出てますけど面白い。
さて、基本的に脚本家志望者相手の講義ですけど、ビジネスパーソンにも意外と勉強になります。
「七人の孫」というドラマがありました。これ、本邦初の1時間ドラマなのね。1時間なんていまじゃ当たり前だけど、昔は特番でないかぎりありえないボリュームなのよ。内容は、主役の森繁久弥さんには孫が七人いる、というドラマ。そのまんまなんだけど。
で、ある日、突然、夜中の撮影中に森繁さんが「ラーメンの屋台でやろうよ」なんて言い出しちゃった。
以前、「通勤快読」で潮健児さんの「星を喰った男」という本を紹介しました。この中で森繁さんは天才だと言ってる下りを載せました。
次の文章がそれね。
天下のモリシゲがまだ自分の楽屋も持ってない頃の話。この頃、日劇小劇場で森繁久弥さんと2人でコントやってたんだよ。
で、潮さんはモリシゲ先生の頭の回転の速さにビックリしちゃいます。その場の即興でパッとコントを作っちゃうわけ。
「そうだ、俺が強盗になるから、潮ちゃん、紳士になってよ。まず、潮ちゃんが舞台の中央に出てよ。で、俺がピストル突きつけるから、手を挙げて。そして、脱げっていうから、服脱いで俺に渡す。逆に、潮ちゃんは俺の服を着るんだよ。
で、服着る時にはピストルが邪魔だから服に入れちゃうだろ。すると、潮ちゃんはピストルの入った俺の服を着ちゃうわけ。で、こんなのが入ってましたって、俺にピストルを突きつけるわけさ。で、俺がビックリして手を挙げて暗転。こんな段取りでどう?」
こんなのが次から次へと出てくるわけ。栴檀は双葉より芳しだよね、やっぱ。
やはり、ドラマ制作の現場でも同じでね。森繁さんが言うとそりゃ面白そうだなとみなが思っちゃう。
で、チャルメラの音を頼りに赤坂から六本木まで走り回って見つけてきた。そのままスタジオに入れちゃう。で、芝居がはじまる。やっぱ、そんだけの苦労をしただけのものがあがるわけよ。
屋台でいっぱいやりながら、親父に向かってぶつぶつと愚痴を言う。
「若い嫁が薄情で・・・」なんてね。
で、今度はそこにお手伝いさんを登場させたい、と言い出す。
「その肩にすがって田舎出のお手伝いさんとよろけながら家に帰るというシーンをロケで撮りたいんだ」
当時、久世さんは助監督。で、文学座から3人の女の子を呼んだわけ。オーティションよ。
中に1人、おてもやんみたいなつんつるてんの着物に下駄履いてるのがいるわけ。で、この子と森繁さんとの掛け合いが絶妙に巧いんだ。森繁さんがめちゃ気に入って、このお手伝いさんがレギュラーになっちゃった。
それ、いまの樹木希林さんなのね。彼女は、このドラマで出てきた。一発でチャンスをものにしたのよ。
久世さんが師匠だと思ってるのは、この森繁さんなのね。そうか、これほどの人がそこまで惚れ込んでいるのか、そういえば、「大遺言」も連載してたな。けど、森繁さんの大遺言だったはずなのに、本人が先に亡くなったな、とか考えたりしてね。
で、いま、森繁さんの本とDVDをかき集めてます。また、ここでご紹介しますよ。読書というのは、こうやって「縁」をつないでいくもんなんだな。
さて、久世さんだけじゃなくて、この塾では現役の脚本家にも講義してもらってます。たとえば、内舘牧子さん、大石静さん、青柳祐子さん、それに竹山洋さんとかね。
竹山洋さんてNHK大河ドラマの「秀吉」、映画だと「ラストサムライ」の人ね。
「メロディ」(TBS・キョンキョン、小林薫、玉置浩二等出演)という脚本書いたとき、久世さんから指摘されちゃう。
「おまえね、これ、一晩で書いてねえだろ」
「3日か4日」
「一晩で書けよ、シナリオなんて1時間ものに2日も3日もかけんじゃねぇ」
ところが、奥山光伸さんには、
「奥ちゃん、ドラマは一晩で書くな!」
奥ちゃんというのはバラエティ作家。バラエティは一気に書くから。つまり、人を見て法を説いてるわけさ。
竹山さんは、鉛筆を10本並べて、よ〜いどんで書き出すタイプ。1本で10枚書く。すると、100枚書けるわけ。これで1時間もののドラマができるって寸法よ。
「言葉のミューズというか、神様が乗り移ったら書いて書いて書き尽くせ」と言ってるね。
「正直に書く。いいシナリオを書こうと思うから楽にならない。いいシナリオなんてだれにでも書ける。律儀や正直がいちばん大切」だってさ。
いいものを書くぞ、と気合いが入りすぎるといいものか書けない。自分の力を見せつけてやろうと思うと、「おまえ、芝居が硬いんだよ。もっと柔らかく書けよ」と指摘されちゃうのね。
いま、テレビ局じゃ、やらせとかインチキとかいろいろ騒がれてるよね。けど、どうせテレビじゃん。演出は必ずあるし、「あるある」なんてあんな番組を真剣に見てる人間がいるってのが、私には信じられないんだよな。
プロデューサーが視聴率ばかり優先してるって非難されてるけど、数字は命なのよ。だって、ドラマにしたら、失敗が3回も続くと異動だし、「あいつは視聴率とれないよ」と俳優なんて主役を降ろされちゃう。主役からすべり落ちたら、復活は至難の業だからね。すると、CMも来なくなっちゃう。となると、プロダクションも困るわけ。
つまり、視聴率1つにこんだけの人の人生がかかってるわけさ。こりゃ、懸命になるわけだよ。数字が悪けりゃ終わりなの。
ほかにも、小林亜星さん、糸居重里さん等々も出演というか、収録されてます。300円高。