2009年01月04日「北京バイオリン」

カテゴリー中島孝志の不良映画日記」

 中国版リトル・ダンサーてとこ? あるいは、バイオリン版だんだんつうか。
 
 13歳の息子は母親が形見に遺したバイオリンを弾き、賞を総なめする天才。父親は中国北部の片田舎のコック。なんとか、息子を成功させんがため、小金を貯めて上京するわけ。といっても、東京じゃなくて北京だけどね。

 父親は息子のことになると懸命。「この人だ!」と思ったら強引に売り込んで弟子にしてもらうわ、「こっちの先生のほうがいい」とわかったら、これまた強引に押しかけちゃう。私心はない。とにかく息子命で一途なのよ。

 どうしてそこまで息子を愛してるのか? まっ、詳しい事情は後半部で明らかにされるけどね。



 「君には無理だね」。これが音楽教師の発したひと言。
 だって、この世界は不公平きわまりないもの。才能だけで勝負できるような場じゃないんだ。腐敗した音楽界に絶望した音楽教師は少年のセンスに目を見張る。でも、結局は少年の将来のためにより成功に近い教授にゆだねるわけなんだけど・・・。

 クールな成功プロデューサーともいうべき教授役は監督みずから演じてます。特典映像ってのは、こういう裏話が聞けるから最高だよね。

 「対極の音楽教師を用意したかった。現代の中国を象徴するような人物をね」
 成功できるならなんでもやるみたいな人物のこと。ものすごい情熱で音楽を指導するけど、ほかにはなにもない。弟子の成功が自分の成功をさらに高める。このために何でもやる人物なのよ。
 チェン・カイコー監督はだれに演じてもらおうかと実際の音楽界の教授たちを軒並み当たるんだけど、みな、どことなく優しい性格でいないわけよ。
 で、ある時、ほかの監督に相談したら、「君なら自然に演じられるんじゃないか?」。で、自らやるわけ。

 参考までに、少年が姉のように母のように慕う生かした女性リリ役は監督の奥さんチェン・ホン。なかなか美形ですよ。

 国際コンクール当日に田舎に帰る父親を追って、少年は北京駅で致知のために演奏するのがクライマックス・シーン。ま、お約束通りの感動ですな。

 実際、この父子のようなタイプは北京、上海には100万人います。韓国もそう。
 実は音楽だけじゃなく異常な英語熱でして、父親は国内でせっせと仕事。なんつうか、「逆単身赴任」つうのかね、こういうの。で、母子2人が渡米。英語を勉強してMBA取得に懸命なわけよ。
 良かったですよ、アメリカで。これが日本だったら、猛烈なウォン安で家計はパンクしてまっせ。

 やっぱ成功するのは一握りなわけでしょ。椅子取りゲームというのはね。大切なことは自ら椅子をつくることにあんだけど、だれもがいま、目の前にある椅子しか見えてない。だから、競争が激しいわけですよ。
 クラシックの世界は古典だから、椅子は勝手に増やせない。けど、「音楽の世界」というようにドメインを広くすればいろんな可能性が表れてくる。まっ、そんなこと言ったらこの映画は成立しないんだけどさ。