2007年03月15日「不動心」 松井秀喜著 新潮社 712円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 「けど、松井は別でしょ?」
 これ、床屋さんのご主人との会話ね。この人、熱烈な巨人ファン。で、私はアンチ巨人というか、王、長嶋時代の巨人ファン。いまや、どんな選手がいるのかも知らない。
 
 でも、やっぱ松井は別格。

 なぜか? この人、一野球選手という枠ではくくれないもの。王さん以来の求道者じゃない?
 この年でここまでできた人物ってのはちょっと考えられないね。本人の資質もあるんだろうけど、彼の周囲にいる人々、たとえば、ご両親とか監督さんとか先輩とかも偉かったんだろうね。
 そんな人との出会い運の良さが本書にはたっぷり。

 さてさて、2006年5月11日は、松井の人生の中でも忘れられない日だよね。
 つまり、左手首を骨折した瞬間だよ。いまでも、テレビで映像を見ると「痛い!」って叫ぶらしいよ。あれだけ感情を外に出さない人間でも、この世の痛みとは思えないほどの痛みだったとか・・・。

 いつも、彼は大丈夫、大したことないって答えてます。だから、「松井は強い人間だ」と思う。
 けど、本人は「むしろ弱いんです。弱い自分と必死に戦っているからこそ口にしていた言葉なんです」だって。

 長嶋茂雄さんからはすぐに電話があったらしいね。
 「松井、これから大変だけどな。リハビリは嘘をつかないぞ。頑張るんだぞ。いいな、松井」

 長嶋さんは阪神志望だった松井をドラフトで引き当てた張本人。
 ヤンキース1年目ではぜんぜん打てなくてね。カットボールを全部引っ掛けて「ゴロ王」と呼ばれる始末。
 長嶋さんはニューヨークに来るたびに、松井を特訓。で、スイング音をチェックすんだよね。目をつぶってバットの音だけ聞くわけ。
 「いまの球は内角だな」
 「うん? 外角低めだったか」
 前日にホームランを打ったとか、凡退したかなんて関係なし。鈍い音がすると叱責され、休む間もなくスイングを繰り返す。毎日毎日、素振りを繰り返す。
 そうやって、一打席一打席を同じ気持ちで入るわけ。

 松井はいつの頃からか、「人間万事塞翁が馬」と思うようになったらしいね。
 禍福は糾える縄の如しってヤツ?

 元々、右打ちだったのね。いまでも右投げだし、箸も右、鉛筆も右。だけど、打席だけは左。
 これなんか、少年野球であまりにも打つんで、兄貴や友人たちから左で打ってみろって言われたのがきっかけ。不思議でしょ? 

 「5打席連続敬遠」てのがあったね。夏の甲子園大会の2戦目。対明徳技術戦で5打席連続敬遠されちゃった。一度もバットを振れなくて敗北。
 だけど、この「5打席連続敬遠」は大きなニュースになったわけ。日本中から注目されたわけ。長嶋さんも見てたわけ。もし敬遠されず、ホームランを打ってたとしても、はたして長嶋さんの目に止まったかどうか、巨人に指名されたかどうか・・・。

 だから、一見、不運。だけど、本当はどうかわからない。こんな人生観を持つに至ったらしい。
 ホントにこの本、野球選手が書いたとは思えないような内容です。経営者、ビジネスパーソンにはぜひチェックしてもらいたい1冊ですな。300円高。