2007年10月26日「『フラガール』を支えた映画ファンドのスゴい仕組み」 岩崎明彦著 角川SSC 755円

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 映画「フラガール」。良かったですよね。蒼井優ちゃんの演技が光ってましたね。
 けど、彼女。助演女優賞(2006年度日本アカデミー)なのよ。主役は松雪泰子さんでしたもん。

 この映画、東宝、松竹、東映などの大手映画会社の製作、配給ではありませんでしたね。シネカノン社が20作品に総額45億円を出資する、という日本映画史上初のファンドが設立されたおかげなのよね。

 著者はジャパン・デジタル・コンテンツ信託に勤務し、このファンドに関わった人物。
 実は、私も会ってるはず。この会社、テレビ東京のそばにあってね。映画製作に関して出資云々で何回も打ち合わせに行きましたからね。慇懃無礼ということがなく、映画に投資しよう、応援してやろうと前向きの人たちばかりでした。
 私、この会社にはとっても印象がいいことばかりです。

 さて、「フラガール」ヒットしましたね。これね、常磐ハワイアンセンター(現スパリゾート・ハワイアンズ)を舞台にした映画なのね。
 製作総責任者は李鳳宇さん。この本、見てわかったんだけど、私、この人の製作した映画すべて観てました。「月はどっちに出ている」「のど自慢」「KT」「ゲロッパ!」「誰も知らない」「パッチギ!」・・・。

 監督や脚本家というのは「職人」。プロデューサーはあくまでも「ビジネスパースン」でないとダメよ。お金儲けに徹さないとね。
 で、「フラガール」はヒットの目安である10億円の興行収入を5週目にして軽くクリア。27週目にして15億円達成!

 「フラガール」の場合、ぶっちゃけ、製作費+P&A費(広告宣伝費)が各3億円計6億円。収益は興行収入の4割にあたる6億円。DVD等の販売(25%)、レンタル(35%)の収益が4億円。テレビ放映権、スカパー!等からの収益が1億円。
 その他海外での販売など、すべてを合わせると12億円近くなるわけね。

 つまり、事業としてはコストの2倍の儲けを生み出したことになるわけよ。「フラガール」の場合は観客動員120万人ですからね。まっ、ぼろ儲けでしたね。

 けど、世の中、こんなに美味しい話ばかりではありません。
 やっぱ、映画なんて、元々、リスクが高いビジネスでしょ。さらに、このファンドに持ち込まれるような企画というのはハナから厳しい内容なのよ。つまり、ヒットしない・・・と判断されたからこのファンドに持ち込まれたわけ。
  
 だってさ、もし、これがヒットするとうなるような企画なら、東宝、松竹、東映等が先に手を挙げるでしょ。「踊る!大捜査線」なんか奪い合いだもの。

 たいてい1勝2敗2分で成立するのが映画のビジネスですな。「フラガール」だってヒットするかどうかはわからなかった。プロデューサー、監督、脚本家などの関係者は「ヒットを信仰」していたと思うよ。

 あとね、私は企画の段階で大ヒット間違いなしと判断してました。
 なぜか? この著者も知らないようだけど、そもそもこの「フラガール」企画はね、以前、NHKが「プロジェクトX」もどきの番組で取り上げたことがあんのよ。
 それがものすごく良かったわけ。これ、ドキュメンタリーでいけるじゃん? 2時間枠でドラマ化したらいいのに。政府なんかあてにせず、補助金なんかに依存せず、地方自らが知恵と汗と涙でV字回復させた真実は必ず共感と感動を呼ぶはずだ、と思ったのね。
 だから、ピンポイントでこの作品だけに投資しても正解だったかもしれません。 
 
 まっ、模範解答を見た後ならなんでも言えますけどね。

 映画ファンドは、ミドルリスク・ミドルリターンを狙ってます。
 つまり、20タイトルに対する分散投資するボートフォリオ型ファンドなのね。投資期間が2年間、回収期間が3年間。すなわち、5年間のファンド期間なわけ。
 今後、こういう仕組みのファンドが増えていくと思います。というか、増えてもらいたい。
 なぜか? お金の運用だけでなく、文化創造への寄与があるからね。ヒット間違い無しの映画に大手企業がこぞって投資するのもいいけどさ、小さないい映画に投資してもいいよね。

 仕組みということは、ほかにも応用可能ということ。いろんなアイデアをファンドにできますよ。お金は使い方次第でいろんな価値を生むと思うな。250円高。



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