2009年05月23日「七人の政治家の七つの大罪」 平沼赳夫著 講談社 1680円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 自民党の次期衆院選で、小泉ジュニアが公認されないとか。これね、ピンチじゃなくてチャンスですよ。
 横須賀でしょ? 小泉地盤で無風選挙でしょうが。ならば、逆風の麻生自民党から出馬するより無所属のほうがいいじゃん。どうせ当選したら自民党に入れてくれて公認料も後払いしてくれるんだから。そんだけのことでしょ。


 「郵便事業の資金から、すでに200兆円がアメリカに流れている。その見返りに、小泉(元総理)と竹中(平蔵・元大臣)は数億円のアメリカ国債を受け取った」
 もちろん、事実かどうかはわかりません。けど、いま、永田町にはこんなメールが飛び交ってます。

 わかることは、こういう「風説」が流れるほど、このコンビは米国寄りだったということ。

 たとえば、竹中さん。平成20年4月、BS朝日の番組での発言。米国経済の落ち込みに対して聞かれて・・・。
 「日本郵政が出資すればいいのではないか」
 「世界最大の政府系ファンドは、日本の年金基金(郵政管轄)です」

 本書で日本の国益を損失させた7人の政治家として断罪されるのは、小泉純一郎さんから麻生さんまでの総理経験者4人。それと、別枠で竹中平蔵さんと小沢一郎さん。そして、最後にご自身。

 とりわけ鋭く切り込んでいるのは、小泉&竹中コンビ。

 小泉さんが掲げた三位一体の改革。
1国庫支出金の削減。
2財源の地方移譲。
3地方交付税の見直し。
 なるほど、一見すれば、地方分権を推進するような改革にも見えますな。けど、これ、ぜんぜんちがうのよ。
 地方にあげる資金(交付金と補助金)は大幅にカット。ざっと47兆円。で、移譲したのはわずか3兆円。「骨太の方針」の名の下に公共事業も一律7%カット。これ、中央から見たトータルの数字ですからね。地方によっては20%も削減されたとこもあんの。

 地方が疲弊するわけですよ。地銀がヘッジファンドや外資系金融機関に一斉に依存し始めるの当然ですな(結果として、この資金でREITが高騰。08年5月までね)。

 先日、加藤紘一さんの新刊紹介したでしょ。あれですよ、あれ。いま、麻生内閣が補正予算でやろうとしてることは、このときの損失補填なんだろうね、きっと。

 さて、小泉&竹中コンビが在任中に頑張ったことは、米国が、毎年、日本に突きつけてくる「年次改革教書」の実現化でした。
 この中に「郵政民営化」が大きく書かれてます(不思議なことに米国大使館のHPは英文なのに、この部分だけは日本語)。参考までに裁判員制度導入もそうです。法務省が考えたことじゃなくて米国のお節介。つうか、なんか、日本の弱体化とか商売上のうま味があんだろうね。

 郵政民営化は、元々の目的は財政投融資廃止。郵便事業と簡易保険340兆円もの資金を、郵政民営化によって、政府機関だけでなく個人、民間企業にも融資可能にする。で、日本経済を活性化する・・・というのが大義名分だったのね。税収もあがるし、上場益だって上がるでしょ。NTTやJRみたいにさ。

 けど、これ、すべて米国のためなのよ。だって、「そのようにしろ!」と米国が命令してるんだもの。

 どこにうま味があるのか? 340兆円という膨大なマネー。もちろん、このお金は日本人が額に汗して働いて貯めた虎の子です。でも、彼らはこの浄財を米国政府(国債買え、財務省証券買えということ)や米国企業に出資せよ、融資させよ、というわけですな。

 米国が日本を買収しやすくするために準備したのが「商法改正=三角合併」。これまた年次改革要望書に入ってます。

 三角合併は株式交換による企業の買収方法の1つ。米国企業が日本に子会社を作る。その子会社が親会社の株式を使って日本企業を買収できる、ということ。しかも現金ではなく株式で買収できちゃうねん(=株式交換)。
もちろん、こんなものはどこの国でも認められておりません。そんなものを米国は日本に要求したわけ。で、このコンビは誠実に成立させちゃった。

 竹中さんなど粉骨砕身。著者に対しても、どのルートを使えばスムーズに行くか懸命に聞き回っていたとか。

 はは〜ん。郵政民営化の本質とは、結局、4人組の「米国代理人」による亡国ビジネスだったのかもしれませんな。4人組とは政界担当=小泉さん、官界担当=竹中さん、財界担当=宮内義男さん+西川善文さん、ではないかしらん。

 ブッシュもそうとう焦ってたんだろうね。4人組にめちゃくちゃ発破をかけたんだろうな。ま、彼らも利害が一致してるから死にものぐるいでやるでしょ、そりゃ。
 鳩山さんが「かんぽの宿」に噛み付いても、西川さんとしちゃ社長を降りられない。平身低頭してもしがみつくしかない。
 いったいなんのため?

 郵政民営化法案についてはすったもんだしましたね。
 著者はもちろん、大反対。2つの意味でね。1つはその中身、もう1つはその手続き。インチキ、うさんくささを感じてね。

 自民党の政策決定は、各部会での議論からスタートします。政府と調整しながら議論を重ね、その後、政策審議会にかける。最後に総務会で決められるわけ。

 ところが、この郵政民営化法案はまず閣議決定。それから党に降ろしてきた。それでも、合同部会を立ち上げて議論した。しかし、平行線のまま。慎重論が強かった。当たり前ですよ。うさんくさいもの。
 33回の会合を経ても結論出ず。すると園田博之部会長がみなの怒号の中、座長一任を取り付けちゃう。
 政策審議会でも同じように強引に通してしまう。総務会では反発が予想されてたから、前もってだれも見たことのない分厚い修正案まで用意されてた。

 「修正案が出されるなら、もう1度、合同部会で議論しなければならん!」と亀井静香さん。これ、ごもっともです。
 けど、総務会長の久間章生さんはだれも見てない、議論もされてない修正案について、いきなり多数決をとると宣言(この人、日頃の言動と同じで無茶ぶりが激しい)。
 賛成7人、反対5人。定数31人だから残りの人は? 採決に加わっていないのよ。なぜなら、中身も見てない修正案をどうして採決できる?
 ところが、この人、一方的に採決したことにしちゃった。

 「自由民主党が自由自在党に変わった」と著者。巧いことを言う。

 本会議になると、小泉さんも本性露わ。公認しないぞ、刺客を送るぞ、公認料やらないぞ、と反対派議員に対する恫喝と威嚇。結局、衆院本会議では5票差で法案通過。

 参議院に移ると、30人のまともな造反議員が出た。反対125、賛成108で否決。で、ご存じの通り、小泉さんは衆院を解散。「郵政民営化選挙」ですね。
 結果はご存じの通り、自民党の圧勝。小泉さんの勝ち。

 悲しいのは、造反議員には刺客を送られて落選の憂き目にあった政治家。
 著者もあべ俊子さんという「くのいち」を送られるたものの返り討ち。参考までに、このあべさん、ちゃっかり比例で復活当選してるのよ。たぶん刺客になったら負けても比例で当選できるようにするからさ、と誘われて、かつての恩人にも弓引いたんでしょうな。

でもね、わけのわからん小泉チルドレンなども出現しましたけど、得票数は郵政民営化賛成3300万票に対して、反対は3400万票と100万票も多いのよ。
 小泉劇場なんて安っぽい芝居を見せられた有権者だけど、愚かなようでいて、意外といい判断してるわけ。

 ところで、郵政民営化準備室と米国通商代表部との間で18回にわたって行われた政府間協議がありましたが、米国追従の姿勢はが明々白々。このうち5回の会合で、メンバーの半分に米国保険会社の経営トップが参加してた! で、「4つの会社に分割、独立させる」「政府が民営化後の株を持っていけない」と具体的に注文つけてるわけ。
 通商代表部のレポートには「最終的にはわれわれの主張を日本の法案に盛り込むことができた」と書かれてる。

 郵便貯金と簡易保険340兆円が米国のために使われてしまう!? こりゃ大変ですよ。日本国民の財産がやらずぶったくりの米国に略奪されちゃうわけですからね。

幸い、この見え見えの胡散臭さに気づいた議員もいました。とくに政府間協議への米国民間企業トップの参加にはある種の疑惑を感じさせます。

 城内実さん(郵政民営化反対論者。片山さつきさんという刺客を送られ落選中)と小泉龍司さん(大蔵省出身)が竹中さんを追及すると、「そんな事実はありません」と白を切る。ところが事実を実証して追及され続けると、とうとう最終的に認めざるをえなくなります。
 つまり、竹中さん、ウソをついてたわけ。いったい、なんのため?

 この人のウソで有名なのは、大臣就任前の住民税不払い疑惑でしたね。
 住民税てのは、毎年1月1日に日本に住民票があることが条件です。で、竹中さん、年末になると米国にせっせと引っ越し。これを何年も繰り返してたわけ。
 大臣就任後に追及されると、「たまたまです」とあくまでも強弁。まことに雄弁な方ですな。

 小泉さんの「怒るというより笑っちゃうくらい」という麻生批判は「かんぽの宿問題」のマスコミ目眩ましのためでは、という著者の指摘は、以前、私も書いた通り。同感同感。
 平沼さんは6人の政治家とちがって、一本筋が通った御仁。衆院選のあとが楽しみですな。400円。

追伸 自民党不利が噂されてますけど、唯一、自民党に風を起こさせる裏技が1つあんの。なにかって? ひ・み・つ。選挙が終わったら教えてあげますよ。