2010年11月19日「精神(想田和弘監督)」

カテゴリー中島孝志の不良映画日記」

 精神病院というとどんなイメージがありますか? 私が小学生の頃は、黄色い車に連れていかれる。こんな噂がありましたけど、どうなんでしょうね。
 いま、精神科もいろいろ分かれてるようですね、精神分裂症にしても統合失調症とか言うわけでしょ?

 これだけ厳しい社会になりますと、ストレスに苛まれているにもかかわらず、押し殺してビジネス社会を生きている戦士はたくさんいますよね。
 心が傷ついても素直に告白できない。「仮面の告白」すらできないわけですね。



 この映画(想田和弘監督)はドキュメンタリーです。音楽もナレーションもテロップすらありません。そんな修飾語が入ると実相から離れるからですね。たっぷり添加されてるテレビを見ればわかりますよ。作り手の誘導通りに視聴者は洗脳されてしまいますからね。
 打ち合わせもなければシナリオもなし。「メッセージもありません。観た人が感じ取ったものがすべて」なんだと。

 ですから、カメラはいきなり待合室に入って片っ端から話しかける。自己紹介して映画の趣旨を説明し、許諾を得た人だけにカメラを向ける。だれが患者かボランティアか、撮っている中でようやくわかる。

 ドキュメンタリーの真髄は「臨場感」と「追体験」ですからね。

 自殺願望で年間6回も入院している女性。(精神科に通うようになったのは)いつ頃から? なにかきっかけは? そう聞かれると・・・。
「生後1カ月のわが子が泣くので口を塞いだ。よくて植物人間。1カ月後、病院で私らが弁当を食べている間に息絶えていた。亡くなってから医師から聞いた」
 実母の癌、悩み、不安、夫の無理解、わが子の死、そして離婚。「おまえなんかここにいるな」「どこかに消えろ」という幻聴。声は20年前に消えて顔すら忘れた父親そっくり。死んだほうが楽になる・・・。

 寝食を忘れて勉強に没頭してポキンと折れた男性。東大から岡大医学部に合格してこれまたポキンと折れた男性。かたや冗舌。かたや無口。
 片っ端から電話をかけては支離滅裂なことを話し続ける男性。
 人それぞれ。本人に聞いてみなければ、正気と狂気のちがいはわからない。

 けど大きなちがいを1つ発見。それはお洒落。おしなべてお洒落に無頓着。そりゃそうだと思う。他人からどう見られているか気にする余裕がない? いやいや、小泉・竹中内閣で「自己責任」「受益者負担」という大義名分で「障害者自立支援法」が制定された。なんのことはない、弱者切り捨て。経済的にそんな余裕がないのだ。クリニック側も患者もこの映画の中で何度も不安をこぼしていた。

 この豊かな日本で自殺者数は11年連続で3万人超。やはり、生きにくいのだと思う。
 
 精神科クリニック「こらーる岡山(院長山本昌知医師)に通う患者たち。待合室でごろんとなり、ボランティア・ヘルパーにサポートされて生活する。全員モザイクなし。詩を読み上げ、短歌・川柳をひねり、とっても明るい。めちゃくちゃ明るい。
 だが、ラストに「追悼」という文字と3人の写真。映画ができる前に亡くなった人たち。2人は自死、1人は原因不明。ショックを禁じ得なかった。
 明るくて大丈夫とだれもが思う。けど心の闇は本人にしかわからない。「がんばれ」なんてとてもいえない。

 さて今回、「中島孝志の 聴く!通勤快読」でご紹介する本は、『最後の授業――心をみる人たちへ』(北山修著・みすず書房)です。♪オラは死んじまっただあ・・・のフォークルの北山さんの本ですね。詳細はこちらからどうぞ。