2014年03月26日「サラの鍵」

カテゴリー中島孝志の不良映画日記」

 鬼の霍乱で高熱。まあ、こちらのほうはインフルではなくて、知恵熱とクタクタ身体にヘタヘタの胃腸が反応した模様。久しぶりの38度超えとご報告した通りでございます。

 おかげでいろんな本が読めました。いろんなDVDが見られましたね。

 「赤い航路(H話にのりのりのヒュー・グラントの間抜けな演技が最高)」「ミッション:インポッシブル」「イングリッシュ・ペイシェント(「存在の耐えられない軽さ」「ショコラ」のジュリエット・ビノシュが助演女優賞を取った名作 )」「モンタナの風に抱かれて(スカーレット・ヨハンセンが娘役なの)」「ランダム・ハーツ(ハリソン・フォードとの競演でっせ)」「海辺の家(昔からメアリー・スティーンバージェンの顔が好きなのよ。これ大好きな映画です)」「ゴスフォード・パーク(ヘレン・ミレンがメイド長の役。イギリス俳優陣総出演の名作)」に出演してるクリスティン・スコット・トーマス主演。意外とこの人の映画観とるんだわ。

 『サラの鍵』はタチアナ・ド・ロネ原作のフランス映画ね。作品のメインストリームは戦前、ヴィシー政権がナチスに協力してユダヤ人を収容所送りにしたこと。お高くとまってナチスを攻撃してるけど、裏を返せば協力してたってわけ。

 自分のことは棚に上げてっつうやつ。どこぞの国みたいですなあ。



 夫と娘とパリで暮らすアメリカ人ジャーナリスト。不妊治療とかいろいろやって待望の2人目を妊娠。けど、老いた父親になりたくないって拒絶されちゃう。

 そんな夫の両親から譲られた古い古いアパート。いま手直ししてるとこ。

 元々の住人は「ヴェロドローム・ディヴェール事件」で検挙されたユダヤ人家族らしい。彼女、いま、仕事でこの事件を洗い直してる最中なの。

 1942年7月16日と17日に実施されたフランス最大のユダヤ人大量検挙事件っす。ヴィシー政権は警察を動員して検挙したんだかんね。その数13152人。うち4115人が子ども。
 
 収容したのは自転車競技場。水無し、食糧無し、トイレ無し。近くの住人はみな窓を閉めました。臭いが耐えきれなかったから。
 中では・・・狂死する人、病死する人がたくさん。なんとか生き延びた人はアウシュビッツ等々の収容所に移送されました。生きて還ったのは100人にも満たなかった。子どもは全員死亡。

 いまとむかしという時間が織り交ぜて流れていきます。

 ユダヤ人家族には10歳の娘サラがいました。収容所から脱走して親切な夫婦に助けられて元気を取り戻すと、夫婦とともにパリを目指します。だって、あのとき、弟の身を案じて納戸に隠したんだもん。鍵をかけてね。

 ところが、ほかの家族がすでに暮らしていたんですね。そう、女性ジャーナリストの義理の両親とまだ幼かった夫がね。

 サラが無理矢理あがりこんで納戸を開けると・・・。

 親切な夫婦はサラを養女にするわけ。綺麗な女性に育ちます。ブルックリンで結婚します。とても美しく、しかし時折とても深い愁いに沈む女性でした。

 サラの足跡を追いかけます。けど、40年前に交通事故で亡くなってたのよ。

 1人息子がフィレンツェで暮らしてると知って会いに行くんだけどさ。まさか自分の母親がユダヤ人だったとは。男は当時9歳。な〜んも知らなかった。頭が混乱して怒って拒絶するわけ。

 男は死期の近い父親から事情を聞かされます。
 「実はお前の母親は事故ではなく自殺だったんだ」
 「おまえを心の底から愛していた」
 弟を殺したのは私だと、ずっと自分を責めてたんでしょうな。

 母親の遺品である日記を受け取ります。女性が指摘したように、サラはまさしく自分の母親だった。ユダヤ人のね。ユダヤ人だと殺されかねないから幼い頃すぐにクリスチャンの洗礼を受けた、つうこともわかった。

 2年後。

 堕胎を懇願する夫と別れてシングルマザーを選択します(絶対に正解。男なんてどうでもいいの。大切なのは子どもなのよ)。で、娘と暮らすニューヨークに男が訪ねてきます。
 母親の死後40年経って初めて本当の自分を知ることができた。父親もすべて告白して安らかに死ねた。あんがと。同時にあのときの非礼を謝罪します。ごめんねごめんね〜。

 2人のやりとりを、ぬいぐるみを抱いてニコニコ聞いてる小さな女の子。

 「お名前は?」
 「ルーシー」

 「いい名前ですね」
 「ふふ、それ、ぬいぐるみの名前よ」
 「な〜んだ。そうなんですか」
 「この子の名前は・・・」

 その名前を聞くや、男の目には涙が溢れて止まらなくなるんですね。

 重たいからさらりと、ダイナミズムだから静かに、伝えたいことがたくさんあるから控えめに。。。こういうのを名作というんだろうね。


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