2015年02月27日「おみおくりの作法」

カテゴリー中島孝志の不良映画日記」

「とても眺めがいい場所ですよ」
「譲りたいんです」
「ご家族に?」
「・・・友人に」

 将来のために自分の墓所を買っていたジョン・メイ。車1台通らん道路でも絶対に左右を確認してから渡るような男。堅実、誠実、くそ真面目。



 仕事は、ロンドン・ケンジントン役場で、孤独死した人の身寄りを捜し、まあ、そんな人はほとんどいなくて、自ら弔辞を書き、形だけの葬儀に列席し。。。つうことを、この22年間、誠実に勤め上げてきた。

 勤め上げてきた、というのは、とうとう、リストラされちゃったからね。

 当たり前ですわな。こんな生産性のない仕事、ありませんもの。相手は常に死者。税金を払ってもらえるわけじゃない。つうか、コストばかりかかる。なにしろジョン・メイは丁寧な仕事をしちゃうからコストがとってもかかる。ちゃちゃっと火葬して終わり、なんてことができんわけよ、この男は。

 上司から見れば、使えないヤツ。空気が読めないヤツ。バカ丁寧なヤツ。鈍くさいヤツ。とろいヤツ。つうことで、リストラされちゃうの。考えてみれば、よく22年間も勤められたっすよね。

 で、ラストの仕事が向かいに住んでたビリーつうアル中爺の始末。
 これには少々ショックを受けてましてね。目の前にいた人だった。異臭で大騒ぎ。死後何日も経ってた。

 最後の仕事。22年間の総仕上げのつもりで、いつにもまして懇切丁寧にやっちゃう。どうしてだろ? それは、ホームレスだって、アル中だって、たった1人で死んでいく人間だって、過去ずっと1人で生きてきたはずがない。家族もいただろうし、友人もいたはずだし、愛し、愛され、生きてきたはずなわけで。。。

 ビリーの過去を探ります。遺されたアルバムを頼りにジグソーパズルの1ピース1ピースを探すためにあちこち出かけます。

「あいつは会社と組合の両方とやりあって休憩時間を5分延ばしたんだ。それですぐ辞めちまったけどね」
「葬儀があります。来てくれますか?」
「ムリだよ。生きてたら会いたいけど」

 喧嘩ばかりしてたビリーは刑務所の世話にもなってた。
「なにもないよ。内務省で調べたら? そうそう、あいつ、ベルトを噛んで4階からぶら下がった」
「・・・?」
「慈善募金のためにね。全員が金を賭けた」

 戦争で一緒だった人間もいた。
「命の恩人だよ。あいつだけがオレを見捨てなかった」

 ホームレスをしていた時期もあった。
「死んだ? ビリーのことが知りたかったら酒をもってこい」
「持ってきたら話してくれるんですね」
 慌てて酒屋に飛び込みます。
「もう一度、ビリーと酒を呑みたかったな」



 アルバムに写ってた少女。いまは立派な女性(これが「ダウントン・アビー」のジョアンヌ・フロガットなのよ)になっている、彼の娘の居所を突き止めます。

「どうして私と母を捨てたのか! 絶対に自分の非を認めない。自分勝手な男なのよ」
「葬儀があります」
「ムリです」

 父親に捨てられ、孤独に生きてきた女性。彼のアルバムには娘の写真ばかり。

「でも、知らせてくれてありがとう」

 孤独な女と孤独な男。ジョン・メイほど孤独な男はいない。ビリーよりもはるかに彼のほうが孤独ですよ。。。

 今日で仕事納めという朝、電話が入ります。あの娘が葬儀に来る、というわけ。

「もしできるなら、葬儀の後、コーヒーでも・・・」
「いいですよ。時間はたっぷりあります、ずっと」

 喜び勇んで、コーヒーカップを2つ購入。店を出るとき、ション・メイはいままでしたことのない行動に出ます。

 こっから先は野暮なんでやめます。もう十分野暮だって? そうかもね。


地味〜〜な作品がロングラン。いいこってす。実は。。。昨日紹介した作品、観客、私1人だけ。がっくり来たけど、ここで復活。日本人は目利きやな。

 それにしても、英文タイトルの『STILL LIFE』。邦題も巧いけど、これ、いいっす。ドンピシャ。感心します。

 ラスト10分を考えるとき、死に様は生き様に反映されているような気がしてなりませんな。どう死ぬかよりもどう生きるか。
 死後の世界? んなもん、死んでから考えればええわけよ。


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