2007年02月16日「放送禁止映像大全」 天野ミチヒロ著 三才ブックス 1365円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 この版元、なかなか個性的なんだよね。有名なとこでは、「劇裏情報の大事典」等々を出版してるとこかな。
 で、これでしょ? 反骨の出版人のような感じがします。好きですなぁ。

 世の中にはいろんな圧力団体があります。で、こういう組織はメディアにものすごいプレッシャーをかけてきます。
 「差別だ!」「不当な表現だ!」「事実誤認だ!」「弱者叩きだ!」・・・いろんな大義名分がそこにはあります。
 で、テレビや新聞、出版等々は自己規制したりしてね。

 圧力団体の使命は、自分サイドの意見を押し通すことであって、日本全体とかバランスといったこととは関係ありません。ですから、傍目で見てると、これのどこが差別なのよ、どこがいけないの、かえって社会的に意義があるんじゃないの?
 そう思えるものがたくさんあります。

 けど、圧力団体側としては話題にされるだけでも嫌なのね。この劣等感というか、拒否感は底知れぬ深さがあると思いますな。

 で、本書は各種圧力団体のクレームや嫌がらせ(?)を慮って自己規制した作品の数々がドドドっと紹介されてるわけ。しかも、映像という通り、テレビ番組や映画なのね。

 で、どんな作品が紹介されてると思います?
 こんな作品なのよ。
「どろろ」「パーマン」「巨人の星」「唖侍 鬼一法眼」「怪奇大作戦」「忍法カムイ外伝」「徳川一族の崩壊」「ザザンボ」「橋のない川」「クレヨンしんちゃん」「ポケットモンスター」・・・。全263作品がずらり。

 もちろん、「しんちゃん」とか「ポケモン」はすべてがすべて自己規制してるわけではありません。ある話の回だけカットされたり、ある言葉だけ音声が抜けてたりされてるわけね。

 中には、テレビでは放送しないけど、DVDではオリジナルのママという作品もあります。たとえば、「巨人の星」ね。この部分カットしたらお話にならない、という部分なのよ。
 その部分てのが、こういうとこ。
 主人公の星飛雄馬は星雲高校というお坊ちゃん学校を受験するんだよね。そして、生涯の友人伴宙太と運命的な出会いをして甲子園に行くわけ。
 この受験面接のシーンがテレビでは音声カットされてます。

「彼の出身は荒川区の下町の中学です」
「こりゃ驚いた。下町の貧乏中学から天下の名門・星雲に志願してきたとはな」
「どぶの匂いがしますな」
 こりゃ、放送できませんよ。「あるある大事典」を超える騒ぎになっちゃいます。社長が国会喚問されちゃうよね。

 けど、次の発言はどうだろう?

「で、親はなにをやっとるんじゃね。ま、どうせたいしたことやっとりゃせんじゃろが」
「(チクショー!)はい、僕の父は・・・」
「早くいわんかね」
「僕の父は、日本一の日雇い人夫です!」
「はははは、いや前代未聞だ。日雇いの子が星雲にやってくるとは、ははは」
「何がおかしい! 俺の父ちゃんは日本一の日雇い人夫だ! 日本一の・・・」と4回も繰り返すわけ。

「子のために親が働くのは当然!」と、父親の星一徹は夜通し働いて入学金をもってくるわけだよ。
 このやりとりがなかったら、伴との出会いも薄っぺらなものになってしまうよね。なんたって、この質問してるの、PTA会長である伴の父親なんだからさ。
 父子2人が巨人の星を目指して頑張っている姿も霞んでしまいますよ。

 言葉狩り? そうだね。ワープロだって、「日雇い」は出てくるけど、「にんぷ」は「妊婦」としてしか出てこない。業界こぞってこんな感じ? 万が一のことを考えて外してるんでしょうな。

 差別用語と考える人たちがいるから差別がなくならないんだと思うよ。
 「あんた、当事者じゃないからわかんないだろう?」って言われそうだけど、私の仕事なんて、典型的な日雇い仕事だからね。フリーターやニートなんて言葉ができる前からずっとフリーターだし、ニートだもんね。いつも、失業状態なんだから。
 ギャラ? あれは「退職金」なの。出版社からの印税なんて、「手切れ金」と考えてるもん。ホントだよ。
 
 要は自分がどう考えるかが問題なんだよね。「日本一の・・・」と思ってれば誇りが生まれるし、その強さに周囲も納得してしまう。他人の評価を気にして生きてる間は永遠に劣等感や、それの裏返しの攻撃心はなくならないんじゃないかな? どうだろ?

 まっ、こんなわけで、本書にはいろんな話題が満載されてます。こういう本はホントに面白いね。300円高。