2007年09月26日「オリヲン座からの招待状」 浅田次郎著 集英社 500円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 これ、この11月に封切られる映画のタイトルね。あの「鉄道員(ぽっぽや)」という短編集に所収されてる小品なんです。

 それにしても、この作品に目をつけたのは、なかなかの目利きだと思うよ。
 ずっと昔に読んだとき、「鉄道員」や「ラブ・レター」(いずれも映画化されてますね)より、「うらぼんえ」とこの佳品に心惹かれたもの。

 あれ、これ、日本版「ニューシネマ・パラダイス」? 最初はそう感じたけど、やっぱ違いますな。現代の文豪はそんなだれにでもわかるようなパクリはしませんな。

 小説では田口トモロウさんと樋口可南子さん演じる「仮面夫婦」が主人公なのよ。だから、「ニューシネ」にならないの。
 けど、映画では若き日の映画館主(未亡人)宮沢りえさんと映写技師(夫になるんだけど)の加瀬亮さん(「それでもぼくはやってない!」)を主演にしちゃった。
 あれれ、これじゃ「ニューシネ」を連想する人は多いと思うよ。

 どちらがいいかというと、まだ映画観てないからわかんない。まっ、どちらを狂言まわしにして物語を進めていくかで、見えてくる風景が違ってくるわな。
 でも、どうして小説のように脚本化しなかったんだろ?

 当然のことながら、映画館主2人を主人公に据えれば、まっ、「こうするかなぁ」というシナリオになってますな。小説では閉館の朝に死んでる奥さんが映画ではそうなってない。
 じゃ、どうなってるか? それは映画でチェックしてね。まっ、原作がしっかりしてるから、多少シナリオいじっても面白いことにかわりはないけどね。

 しつこいようだけど、浅田さんという作家は、こういう小品にも手を抜かずに1つの世界を紡いでいく人だから、下手にいじるなっつうの。

 さてさて、舞台は京都の西陣。古びた映画館オリオン座。巧いねぇ、浅田次郎さん。オリヲン座・・・映画館名。う〜ん。

「西陣」ちゅう地名は、もちろん、京都にはありません(私ゃ、中京区壬生。新撰組の屯所前に4年間住んでましたからね)。西陣ちゅうのは、応仁の乱のときに山名側の西の陣一帯を指す言葉なんよ。
 で、昔は、機屋さんがたくさんあってなぁ、それはそれは華やかでござりましたんえ。新京極ってありまっしゃろ。新というからには、旧がありますわな。本家ちゅうか元祖ちゅうか、この西陣は千本通りあたりが京極と呼ばれてたちゅうわけです。

 「映画館閉めます」「最後の上映をします」という招待状が届くわけ。

 受けとったのは、子どもの頃、この映画館の映写室で遊んだ2人。
 その後、東京で結婚。が、いまはゆえあって別居中。妻(樋口可南子)は妻子ある年下の男と愉しみ、夫(田口トモロウ)は出世欲の塊で、別居中の妻を呼び出して月1回食事をともにするシーンを周囲に見せつける人間。
 この2人がかつての遊び場である映画館に吸い寄せられるように向かいます。

 世の中にはいろんな形の夫婦がいますね。契約関係のような夫婦、まだ恋愛中の夫婦、兄妹のような夫婦、先生と生徒のような夫婦・・・この映画、ある意味で映画「マイハート、マイラブ」のようにも観られるし、ある意味で「夫婦善哉」にも観られるし・・・。
 さて、どんな物語が展開するのか・・・お楽しみに。

 11/3封切り。楽しみですな。注目は妻役の樋口可南子さんと映写技師役の原田芳雄さん、それと子役の演技。300円高。