2007年11月24日『沈底魚』 曽根圭介著 講談社 1680円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 愚息が持ってたんだよね。テーブルに置いてあったわけ。
 江戸川乱歩賞? ふ〜ん。どんなこと書いてんだ? 眺めてるうちに、結局、読んじゃった。警察もの、公安もの、スパイ小説。

 そういえば、佐藤優さんによれば、プーチンは先ごろ亡くなったKGBのスパイを顕彰しましたな。
 功績はアメリカの原水爆技術に関するスパイ行為。アメリカではルクセンブルグ夫婦が冤罪で逮捕、処刑されたけど、ホンボシはまんまと生きながらえてたというわけね。で、あのときも奥さんのほうは知らんけど、旦那のほうはスパイだったみたいだね。
 けどさ、プーチンもなかなかやるねえ。「あんたらどこに目ぇつけてんねん!」とばかりにCIA・FBIの失態をわざわざ暴露してるんだからさ。
 
 さて、「グッド・シェパード」の日本・中国版か。横山秀雄さんか藤原伊織さんか。てな感じ?

 さて、中国外務省の人間がアメリカに亡命。で、日本の政治家で閣僚経験者が中国のスパイだ・・・と告白するわけさ。で、警視庁の外事課、公安課が動き出す。
 しかし、この小説読んでると刑事の世界はつくづく嫌になるねぇ。仲間意識なんてのは、外部から非難されたときだけ芽生えるもので、ベルリンの壁より分厚くて高いセクショナリズムがあるわけさ。組織だけじゃなくて、刑事同士にもね。

 主人公は不破刑事。なんだ、これ。共産党の元委員長の名前じゃん。
 で、ライバルが五味刑事。
 警視庁は「沈底魚(スリーパー)」の捜査本部を設置。行確の狙いは次期総理とも目される芥川健太郎。行確なんちゃって行動確認のことね。

 ところが、新聞にすっぱ抜かれちゃった。
「中国に機密情報漏洩、現職国会議員が関与か?」ってね。

 『インテリジェンス』をお読みの方はわかるように、情報攪乱もスパイの常道でしょ。実は芥川をスバイ・スキャンダルで葬りたいのが中国の狙いだったのよ。

 この芥川には秘書、伊藤真理がいるんだけど、これが不破の高校時代の幼馴染み。
 この女も行確されちゃうんだ。で、不破のところに電話でねじこんでくるわけ。

 五味は不破を仲間として見ない。「裏切り者」として見ているわけ。自分の協力者を葬った張本人だと考えてるからね。いつの間にか、不破は伊藤に警察情報を流していると五味グループからつけねらわれます。
 
 中国は尻尾を捕まえられる前にすべての証拠を消してしまいます。それをされたら、すべての努力が水泡に帰してしまう。だから、スパイを泳がせてじっくりと情報を吸い上げる。全容をつかむことが大切。

 そういえば、北朝鮮の首領様の長男がディズニーランドに何度も遊びに来てたらしいけど、外務省と警察(公安)、そして官邸との連絡が不首尾で、結局、逮捕しちゃったでしょ? 逮捕したら、とんでもない大物で慌てふためいてたんだから、お笑いぐさですな。

 どうして泳がせておかないのか? 逮捕するなら、じっくり尋問して徹底的に吐かせなかったのか? たんなるお客様として帰してしまったんだから。時の田中真紀子外相など、面倒だからさっさと帰しちゃいなさい、と言ってたらしいね。
 
 アメリカも007の英国も、この日本政府の判断には愕然としただろうね。たぶん、北朝鮮のルート(密入国)は徹底的に消されてしまったと思うよ。

 この小説にはバカな政治家は登場しません。外務省の能なし官僚も登場しません。
 あくの強い公安刑事たちが次から次へと登場。まっ、あっという間に読める1冊。推理小説はこうでなきゃね。200円高。