2008年01月09日「関東平野(全3巻)」 上村一夫著 各1600円 小池書院

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 「時代を代表する○○」という表現があるよね。
 たとえば、戦後といえば野球ですよね。で、長嶋茂雄さんですよね。このときから、日本はセピア色からカラーになったと思うのね。

 で、この人もたしかに時代を代表する劇画を描き続けてたと思う。

 イラストレーター上村一夫。あの『同棲時代』の上村さんのこと。

 1940年、横須賀市生まれ。武蔵野美大卒。銀座にある宣光社という広告代理店でアルバイト。
 わずか半年なんだけど、阿久悠さんと運命的な出会いをすんの。彼はここの社員だったからね。阿久悠さんの本を読むと、「5〜6年一緒に働いたと思ってた」というんだから、よっぽど印象が濃かたんだろうね。

 阿久さんというのは霊感というか、直感の凄い人でね。あの伝説的な雑誌『平凡パンチ』が創刊されると聞いたときに、「上村が出てくる、あいつが絶対に描くぞ」と周囲に言ってたの。それがドンピシャ。怖いですな。

 その後、阿久悠さん原作・上村さん作画で「悪魔のようなあいつ」など発表します。
 これもおもしろいんだけど、阿久さんが「時間ですよ!」「寺内貫太郎一家」で知られる演出家の久世光彦さんに紹介すんの。すると、この「悪魔のようなあいつ」をドラマ化しちゃうんだよね。
 このドラマ、いま、DVDも発売されてるけど、これまた伝説的なドラマでね。ジュリー(沢田研二さん)主演。あの三億円事件の犯人役なわけ。ロケが横浜なんですよ。でね、わたし、このロケ見てるの。なんかとってもとっても不思議。

 なんか「伝説」の大安売りなんだけど、ボキャ貧というより、世の中にはそうとしかいえない世界があるよね、たしかに。

 さて、彼は27歳のときに「カワイコ小百合ちゃんの堕落(『タウン』)でデビューします。その後、32歳で発表した「同棲時代(『漫画アクション』)が若い世代に圧倒的な支持を受けます。大ブレイクよ。
 なんたって、すぐ、由美かおる・仲雅美主演で映画化されちゃったもん。これね、映画の内容なんかより由美さんのボインが話題になってね。どの週刊誌も、由美さんのヌードばかり追いかけた。

 もち、わたしも追いかけたんだけど、これがまぶしくてね。「ええ乳(ちち)しとるのぉ」(笑福亭鶴光師匠風に)そのまんまなのよ。日本人にもこんな綺麗な胸してる人いるんだって感動しちゃった。そうね、感動ですな。いやらしさが全然なかったもの。
 そういえば、「しなの川」にも由美さん出てたな。

 『少年マガジン』『サンデー』の創刊が1959年。で、60年代の終わりからは、『漫画アクション』『ヤングコミック』『ビッグコミック』といった青年コミック誌が続々と創刊されます。
 その中で常にトップをキープしてた人ですな。最盛期には月産400枚。こりゃ凄いや。

 残念ながら、1986年に45歳という若さで夭折されました。

 彼のキャリアは、元もと、広告美術のイラストレーターなのね。それから漫画、劇画の世界に飛び込んできた。
 たんなる「お色気漫画」じゃない深みというか凄みがあるんだよなぁ。だからなのか、彼の作品に登場する「おんな」にはめらめらとした情念が燃えてるんだよ。なんとも艶っぽい絵で、子ども心にも見ちゃいけない、触れちゃいけない「魔の世界」を感じさせましたね。

 「関東平野(全3巻)」って作品は彼の自伝的劇画で、没後20年追悼記念として出版されたのね。
 関東の食料庫千葉県。その椿村に疎開してきた少年金太が主人公。幼くして両親を失い、物書きをしている祖父と2人暮らし。
 戦後の混乱期に、ここで多感な青春時代を生きるんです。男と女の世界を知る。少年が大人になるさまざまな儀式。なにより、いろんな人間と出会う。
 そして、金太は画家を志す・・・。


「おんな」を描かせたら天下一品。「現代の夢路」と言われたのも当然ですな。