2008年09月07日「金正日の正体」 重村智計著 講談社 756円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 「党高国低」の気圧配置の福田さんが政権を放り出したおかげで、いちばん困ってるのは拉致被害者のご家族でしょうな。「ようやく再調査というところまで来たのに振りだしに戻った」とガックリでしょう。

 官邸と外務省のミスリード・タッグチームに騙されてはいけません。けど、交渉の窓口が1本しかない。しかも、それが「他人事人総理」と「国交回復特需狙い」の連中がやってるところに、構造的な虚しさを感じるのは私だけではないでしょう。

 戦前の日本ならこんな舐めた真似はされなかった。やはり、いざというとき、戦争のできないチキン国家ではいけない・・・と思う人もいるでしょう。
 けどね、戦争力というのは軍事的な面だけではないんです。かつての英国のように、諜報力、外交力でフランス、ロシア、アメリカを向こうに回した総合的なしたたかさのことなんです。

 軍事力と交渉力がなければ、国民の覚悟。意思統一。これが大切であって、経済力なんてものはなんの役にも立ちません。GNP世界2位? わが中華人民共和国が併合すれば1位になる・・・わな。元々、日本は中国の一部だった・・・なんて言い出しかねませんよ。

 さて、洞爺湖サミットでの他人事総理の一こま。「(アメリカの)テロ支援国家指定解除になぜ反対しない?」という質問に対して、なにも答えない。「拉致問題の解決なくして日朝国交正常化なし」とも発言しなくなりました。

 08年6月の再開された日朝実務者会議。
 日本側は「拉致被害者を発見し帰国させるための再調査」と「よど号ハイジャック犯引き渡し」に合意と説明。

 ところが、北朝鮮側の立場に立てば、そんな約束するわけがない。日本国民はまんまと日本政府・外務省に騙されてぬか喜びしてしまったわけ。
 北朝鮮側の報道は「拉致問題解決のための再調査」「よど号問題解決への協力の用意」と述べただけ。被害者を発見し帰国させるなんてひと言も言ってないわけ。「解決に協力する用意」と言ってるだけ。

 北朝鮮が考える拉致問題解決とは、拉致被害者は全員死んだ、と日本に納得させること。これ以外の選択肢はない。

 では、どうして日本政府は国民を騙したのか? そりゃ、アメリカが北朝鮮へのテロ支援国家を解除したいから、それに協力するためのアリバイ作りよ。つまり、福田さんははなから日本国民なんて見てないの。ずっとブッシュを見てるだけ。
 この人が見てるのは胡錦涛とブッシュ。あとは知らん顔。日本国民。他人事でしょ、きっと。

 北朝鮮について考えるとき、重要なことはニセ情報を見分ける能力。それと歴史観。日本の「朝鮮問題専門家」と称する人の中には「コメント教授」「イベント教授」や「北朝鮮代理店」みたいな人もいますからね。要注意です。

 著者は金正日の替え玉(ダブルと呼ぶ)がいることを95年に確信。

 北朝鮮では80年代からダブルを用意していたらしいですな。ダブルは当初2人、いまは4人。そのうち1人は女性とのこと。
 92年、93年と連続して軍部のクーデターがあった。野外での演説とかは危ないからね。

 2000年以降の公式会談はすべてダブル。ダブルは高官の子息で似ている人物をさらに整形手術させて作る。
 2002年9月に小泉さんが訪朝して将軍様と会談しました。テレビでも放送されましたね。あれもダブル。実は、将軍様は2000年の段階では糖尿病の悪化で少なくとも車椅子生活を余儀なくされていた。

 80年代の声紋と比較すると、「別人」という結果が出ている。というのも、小泉さんがコケにされた2回目の訪朝会談の発言を韓国人通訳に翻訳させたところ、「??」の連続。何度も聞き直して確認すると、ひと言。

 「これ、北朝鮮の言葉ではなく韓国語です」

 イ・スンヨクという巨人の選手がいます。「チャングムの誓い」のイ・ヨンエ。どちらも名字は「イ」ですけど、これは韓国語読み。朝鮮語では「リ(李)」と読みます。このようにあちこちが韓国語。

 そのほか、著者がダブルと気づいた根拠は複数に上ります。
 たとえば、北京オリンピックの聖火リレー。普通どこの国でも体育大臣とかオリンピック委員とかが式典に登場するわけ。
 ところが、北朝鮮では「国家元首」である金永南(キン・ヨンナム)最高人民会議常任委員長が姿を見せ、聖火を受け取り、ランナーに手渡してるわけ。
 これはありえません。北朝鮮ウォッチャーたちも「?」。

 なぜ、将軍様より目立つことができたのか? 将軍様が命令した?
 ありえませんな。北朝鮮ではすべてが政治活動。すべての行為に将軍様の許可がいる。けど、許可するわけがないことを行っている。こりゃ「?」ですわな。

 いま、平壌では4人の高官による権力争いが激化してます。その代表的な勢力がこの金永南。もし、将軍様が元気ならそもそも権力争いなど起きるわけがありませんな。

 北朝鮮は集団指導体制に移行した? これ、著者の質問に中国の高官も思わず認めてしまった。となると、将軍様は決定していないということになりますわな。
 突っ込んで質問すると、黙っちゃった。福田さんと同じです。

 もちろん、アメリカはじめ、各国も将軍様の秘密に注目して調査している? 「調査中」ではありますが、大きな声では言えない。
 だって、一国を代表するリーダーをそっくりさんと交渉させてたことがばれたら、調査機関として恥だもんね。でも、アメリカでは偵察衛星を飛ばした結果、「おかしい。2.5センチも身長が伸びてる」と分析。
 これ聞いたとき、「そうだ。10年前のダブルはホンモノより私のほうが少し高いと言っていた」と思い出すわけ。

 ま、いずれにしてもそのうち真相は判明することでしょう。小説や映画にもなるでしょうな。300円。