2009年10月16日「老化も進化」 仲代達矢著 講談社 880円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 俳優にして俳優養成所、無名塾の主宰者として知られる仲代達矢さんの本です。

 私、舞台は少ししか観てませんが、映画についてはほとんど観てますね。

 たとえば、小林正樹監督の『人間の条件』『切腹』・・・『切腹』の津雲半四郎役は良かった。カンヌで賞を取ってますね。
 黒澤明監督では『用心棒』『椿三十郎』『天国と地獄』『影武者』『乱』とかね。
 山本薩夫監督だと『華麗なる一族』など、学生時代から何回観たかわかりません。とくに、『人間の条件』は長編でね。6時間を軽く超える映画でしたよ。

 出演映画は、米国アカデミー賞と世界3大映画祭=カンヌ・ヴェネチア・ベルリンのすべてで受賞。その他、NHKの大河ドラマでは『新・平家物語』の平清盛なども演じてました。

 8歳で父を失ってからというもの、貧乏のどん底で子供の頃から働きづめ。
 富裕層の多い青南小学校では、「あなたのような貧乏人が来る学校ではありません」とののしられたり。
 定時制高校時代、学校で給仕のバイトをしてたんですけど、父兄からの付け届けを平気で受け取る。それで成績をいかようにも変える。自分たちだけで食べて、コロッケ1つ恵んでくれない。そんな「教師」という職業にはずっと不信感を抱き続けてたようですよ。

 冶金工場、木場の材木担ぎ、大井競馬場の警備員・・・ありとあらゆるアルバイトをしました。
 そんなに厳しい時でも、食費を抜いて映画や芝居を観た。かといって、俳優とか演劇を志そうなんて気持ちはさらさらありません。
 夢はとにかく公務員。毎月きちんきちんと収入があって、家庭を持ち、老後を静かに暮らす。これが仲代青年の夢。

 それに生来の恥ずかしがり屋、小学校を何度も移ったこともあって人見知り。記念撮影はいつも隅っこ。無口。泣き虫。いじめられっ子。
 とても人前で何かするような仕事につけるはずがありません。

 後年、俳優になったとき、小学校の担任から、「ホントにあのときの仲代くん?」と聞かれたほどですもん。

 しかし、意外とこうなのかもしれません。さんまさんは別にして、渥美清、ビートたけし、タモリ。ネクラの芸人は少なくありません。いたずらにいつも明るい人よりもかえって爆発する力があるのかもしれませんな。

 人間、なにかの拍子で「進化」とか「革命」が起こることがあります。
 これはだれにでもあります。中国では、「男子三日合わざれば、刮目して相まみゆるべし」という言葉まであります。3日会わないうちに人って変わるんだ、という意味ですね。「人間革命」です。とくに若いうちは進化のスピードが速いんです。

 仲代さんが映画や芝居に夢中になったのも、お腹も飢えていたけれど、心の渇きが激しかったんでしょうね。映画を観ることで、こんな世界があるのか、こんな生き方があるのか・・・と、いい意味で「ショック」を受けた。

 このショックが仲代青年を動かします・・・この続きはこちらからどうぞ。