2013年02月04日「晩春」

カテゴリー中島孝志の不良映画日記」

「……今日のお能はなかなかよかったよ」
「……」
「喜多川でご飯でも食べて帰ろうか」
「……」
「どうする」
「あたしちょっと寄り道があるの」
「どこだい」
「いいの」
「帰りおそいのか」
「いいのよ、わからない」

 いい捨てて原節子は道を横切る。2人はしばらく道の両側を歩む。無能な監督であれば、「いいのよ、わからない」といいきった原節子に来た道をとって返させるだろう。
 
 この映画は娘を嫁に出す男の話であって、嫁ぐ娘の話ではない。

「まア、どこへもつれて行ってやれなかったけど、これからつれてって貰うさ。……佐竹君にかわいがって貰うんだよ」
「お父さん。奥さんお貰いになったっていいのよ。やっぱりあたしお父さんの傍にいたいの。お父さんが好きなの。お父さんとこうしていることが、あたしには一番倖せなの……。ねえお父さん、お願い。このままにさせといて……。お嫁に行ったって、これ以上の倖せがあるとは、あたし思えないの」


小津作品ではベスト。ま、岩下志麻さんが好きなんで「秋刀魚の味」もいいんだけど。かき集めてつくったような作品だかんなあ。。。

昔の女優は美しかった。まあ街中ではけっして出会わない麗人。スタアですわな。

 終戦直後。昭和24年に『晩秋』26年に『麦秋』、そして28年『東京物語』を公開します。いの上映中の山田洋次監督の『東京景色』はもちろん小津映画へのオマージュ。
『娘の結婚』で原節子さんがかつて演じた役を鈴木京香さんがしたときには二重写しに見えました。


 さて「中島孝志の 聴く!通勤快読」でご紹介する本は『絢爛たる影絵 小津安二郎』(高橋治著・岩波書店)です。詳細はこちらからどうぞ。