2007年10月18日「憎まれ役」 野中広務・野村克也著 文藝春秋 1260円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 亀田大毅・史郎父子の謝罪会見がありました。ボクシング世界フライ級チャンピオン内藤大助選手とのタイトルマッチ戦に関する謝罪です。

 負けたことに対する謝罪ではなく、たぶん、反則(とくに12R)についての謝罪なんでしょうな。日本ボクシングコミッションは史郎氏をライセンス停止、大毅選手の出場停止、興毅選手に厳重注意にしましたもんね。

 責任うやむやの大相撲に比べてすっきりはっきりしてますな。

「切腹したるわ」とチンピラ言葉で大口叩いたのにあっさり負けちゃった。けど、格闘技ではこういう舌戦は当たり前。ショーの1つとしてファイトを盛り上げる彼ら一流のパフォーマンスですよね。

 このように、商売でやんちゃキャラを演じてるうちに、どちらが演技でどちらが素なのかわからなくなることってありますよ。
 ヒール役に徹して盛り上げないと、視聴率が稼げない。お客が入らない。ファイトマネーも入らない。ボクシングで生活する覚悟の亀田親子を誘導したのはTBSなんじゃないかなぁ。

 ファンの皆さん、アンチファンも含めて、もうここらへんで亀田一家を勘弁してあげてはどうですか? 

 TBSは番宣のために亀田兄弟をフル活用。バラエティに登場させたり、歌を歌わせたりまではご愛敬。だけど、子供をチヤホヤしてれば、だれだって「エリカ女王様」状態になりますよね。これは大人としてきっちり指導しなけりゃいけません。

 彼らはタレントじゃなくて、ファイターなんですからね。

 にもかかわらず、タイトルマッチでは亀田べったりの実況放送。
 亀田親子はTBS専属タレントなんだ、殴る広告塔なのか・・・そう感じたのは私だけではないでしょう。

 こうなったら180度イメチェンしてリングにあがったらいいんですよ。
 たとえば、73分けの髪型にネクタイ締めて、鞄持って登場したらどう? で、対戦相手には揉み手でニコニコ挨拶して名刺まで渡しちゃう。
 リングネームも「リーマン亀田1号・2号」なんてどう? ダメだろね?


 さてさて、憎まれ役。よくつけましたなぁ。
「野中先生、野村監督、タイトルなんですが・・・憎まれ役となりました」
「ナニ!」
「いくらなんでもそれじゃと渋ったんですけど、上の方からこれでいけ、と言われまして・・・」
 まっ、実際は苦笑いしながら了承したのかもしれません。

 2人の共通点・・・いろいろあんだよね。京都府出身、B型、高卒、好物:甘いもの、酒・煙草:のまない、欠点:カッとなりやすい・・・なんといってもいちばんの共通点はこれでしょう。

 這い上がってきた人間であること。

 エリートじゃないんですよ。地べたを這いずり回り、泥水をすすり、汗と涙と知恵を絞りながら1歩1歩地歩を固めてきた人生なんですね。

 王・長嶋という光と華に比べれば月見草。小泉純一郎という人気者に比べれば悪役。
 どちらも損な役回り。これも共通点か。けど、光や華でなかった分、人の痛みがわかる。配慮ができる。これが強みでもあり、また弱みでもあるのかもしれません。

 野村監督については、本サイトでは嫌と言うほど紹介してきましたから、野中さんにスポットライトを浴びせましょうか。

 以前、ハンセン病患者の国家賠償請求について、小泉首相の決断で国が控訴を断念したことがありました。もちろん、マスコミは拍手喝采をおくりましたね。

 これ、ホントは野中さんが官房長官時代に道をつけたものなんですよ。

 ハンセン病患者の団体が官庁や政治家に面会を申し込んでも、だれも会わなかったんです。会って励まし応援を約束したんですね。
 その後、官房長官を辞めて、小泉政権下で「抵抗勢力」という悪役にされてる時、熊本地裁で勝訴します。もし、国が控訴すると高齢の患者は裁判に耐えられないと、野中さんのとこに陳情に来たわけです。
 彼はすぐに大阪の公明党の福島豊議員を通じて坂口力厚労大臣に連絡。野中さんと公明党は昵懇ですからね。坂口大臣も「総理の決断として控訴しないことにしましょう」と約束してくれたというわけ。

 野中さんが怒りに燃えた1件があります。地下鉄サリン事件の犠牲者から手紙が届いたのね。

「オウム真理教からの弁済金が一時金として入ったら、生活保護が止まりました。収入があったんだから、という理由です」 

 この時、自治大臣(当時)。政治家というより人間として怒り心頭。本来は国家の怠慢で起きた事件。裁判上はオウムが弁済することになっているけれども、物事の本質を見失うな。担当の役人を呼んで激怒。
 役人ですからね、慌てて元に戻しましたよ。

 順調にいきすぎた人間には弱い人の気持ちや立場がわからない。エリートには庶民の気持ちはわからない。
「パンがなければケーキを食べたらいいのに」と言ったマリー・アントワネットまではいかないでしょうけど、似たようなところがあります。

 成功している人、健康的な人、明るい人は、そうでない人にはその存在だけでもうざったいのだ、という気持ちをどこかに持っていないと間違いを冒しかねません。
 そんなに窮屈なの?
 そうなのね、窮屈に感じるくらいでちょうどいいのかもしれませんよ。250円高。