2009年01月02日「夕映え天使」 浅田次郎著 新潮社 1470円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

長編も面白いけど、ちょっとした小品にセンスを感じてしまう作家ですな。掌の佳品といった感じ?

 幸せを求めながらも、どんどん幸せとは真反対の方向に進んでしまう人っていますよね。
 遠慮がちな性格が、手を伸ばせば楽々と届くのにつかまえようとしない。幸福とか成功にも遠慮してしまうのよ。
 「こんなわたしが人並みに幸せになっちゃいけない」とでも考えてるかのようにね。

 どんな経緯でそうなったのかわからない女が1人。さびれた商店街のさえない中華料理屋に飛び込んできた。忽然と姿を消してしばらく経つと、軽井沢の警察署から電話。行くと、関西弁のうどん屋と遭遇・・・。
哀しすぎて話にならない女をめぐる、これまた哀しい男たちの物語「夕映え天使」。

 「夕映え」なんて言葉、久方ぶりですな。

♪赤い夕映え 通天閣も
 染めて燃えてる 夕陽が丘よ
 娘なりゃこそ 意地かけまする
 花も茜の 夾竹桃♪

 フランク永井さんの「大阪暮らし」ですな。

 そのほか、「切符」「特別な一日」「琥珀」「丘の上の白い家」「樹海の人」と佳品が続くんだけど、どれもいい。
 とくに好きなテイストは「切符」と「琥珀」かな。

「切符」の主人公は少年なんだよね。そうだなあ、「ALWAYS三丁目の夕日」に出てくる古行淳之介くん、いたよね。あの子を彷彿とさせる物語。
 あの子、両親とわけありで茶川竜之介のとこに来たでしょ。母親を求めて再婚先に訪ねに行くじゃない? あの雰囲気がベースにあんの。
 オリンピック直前の東京でも、離婚なんてそんなにあったわけじゃないと思うのよね。
 会社が左前のくせに女と逃げたわが子。その連れ合いは後妻におさまるから子供を返してくれ、というわけ。だけど、明治気質の祖父さんは許さない。
 「おまえには悪いが、オレが育てることにする」
義足の祖父さん、昔は腕のいい大工。「ヒリッピンにあんよを置いてきた」ということで、いまは建具屋。で、わずかばかりの足しになればと、自宅2階にこれまたわけありの夫婦を店子にしてるんだ。
 同級生の「李」という少女との交流。2階の若い女との交流。少年のきらきらとした瞳は、こうい人間関係の中ではぐくまれるものなんだ、ということが伝わってきましたな。

 定年間際でたまりにたまった有休を消化するために関西から旅に出た刑事。東北のとんでもないさびれた街でたまたま降りちゃった。
 で、あまりの寒さに逃げ込んだ小さな喫茶店。東北弁のマスターだが、間違いない、あの男は・・・。300円高。