2007年12月24日「三面記事の男と女」 松本清張著 角川書店 540円 「松本清張傑作短編コレクション」 文藝春秋篇 700円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 年末年始は私らの商売は1年でいちばん忙しいのよね。出版社も印刷屋さんもお休み。だから、2カ月分の原稿を渡さないといけないわけ。
 当然、締切三昧なの。

 けど、けど、活字中毒の私は本を取らないと手が震えてしまいます。禁断症状。で、山ほど積んである中から、ここ数日は松本清張の本ばかり。
 この正月も仕事と松本清張で過ごそうかと考えております。

 松本清張小説の中ではいろんな犯罪が出てきますね。多いのは、絞殺と薬殺(青酸カリが多い)。あるいは、崖から突き落とすとか。これは死体秘匿のためにも流用されてます。

 たとえば、「点と線」がそうですね。立川でパンパン(街娼のこと)をやってた女(いまは地方の金持ちの奥様におさまっている)が男(元警察官)を殺すのもそう。男の兄についても青酸カリで殺してます。

「鬼畜」では父親が長男を崖から突き落とし、「影の車」では主人公が母親の男(伯父)を海に突き落とし、「黒の奔流(原作は「種族同盟」)」ではゼネコンの専務が女中から突き落としてます。手っ取り早いもんね。
 ただし、鬼畜の場合は子どもは崖の途中の木々に引っかかって助かりますがね。これが犯人の誤算(?)。

 途中で助かるという手法も松本清張の場合、少なくありません。
「疑惑」もそうです。金と女(この場合、同意語ですけど)のために連続殺人を犯す病院長の犯罪が露見するのも、絞殺したはずの婦長が息を吹き返したことにあります。
 この婦長が女性デザイナーを脅迫し、それで逮捕されてしまう。そこから芋づるです。

「三面記事の男と女」の中に短編「たづたづし」があります。
 男は役所のエリート街道に乗っている。ただし、これは岳父のおかげ。気の強い妻には愛情の欠片もないけど、出世のためにはしょうがない。
 この男がすし詰めの通勤電車の中で若い女と知り合う。女は郊外に家を借りて1人住まい。となりゃ、いつの間にか懇ろになるのも無理はない。
 けど、女はわけあり。

「実は・・・私、夫がいるの」

 なんと、あと1週間でムショから出てくるという。男はうろたえます。女との未来をとるか、現在の立場を保守するか・・・。結局、殺すわけ。長野でね。
 不審な死体があらわれるかどうか、気になる男は地方紙を熱心に講読するわけ。

 ここまでで止めときましょう。未購読者に失礼だし、それに今回の論点はちと違うんだなあ。

 この小説の冒頭数ページ、つまり、女との出会い、女の住まいの環境は「影の車」にくりそ。女(岩下志麻さん)が子どもと住んでる家を鮮明に連想させます。ただし、電車とバスとの差はあるけどね。

 もう1つ。熱心に地方紙を読むという点。これ、「松本清張傑作短編コレクション」の中にやはり短編「地方紙を買う女」という傑作があります。
 これは数年前、やっぱテレビドラマ化されましたな。

「貴紙をを講読いたします。購読料を同封します。貴紙連載中の『夜盗伝奇』という小説が面白そうだから読んでみたいと思います。19日付の新聞からお送りください・・・」

 で、甲信新聞をとるわけ。

 誤算が1つ。新聞社が気を利かしてこの小説の作者に連絡したこと。女のところに礼状まで届いた。
 1カ月間、女は隅から隅まで新聞を読んだ。

 もう大丈夫・・・。

「前金切れとなりました、つづいてご購読下さるようにお願い申し上げます」とハガキ。
「小説がつまらなくなりました。つづいて講読の意志はありません」

 誤算がもう1つ。また、作家のとこに転送されたということ。

「これだから女の読者は気まぐれだ」

「読みたい」と言ってきた回より、「つまらなくなった」という回のほうがはるかに面白くなっているのだ。後味の悪さが頭から抜けなかった。

 あの女の読者は、途中から読み始めた。面白いと言っていたが、どこで知ったのか? この新聞は東京には無いはずだ。おかしい。
 オレの小説ではなくて、ほかのなにかを読みたかった?

 ハガキには「19日付の新聞から読みたい」とある。ということは、この新聞の網羅する地域で18日以降に記事になりそうなことが読みたい・・・ということか?

 調べると・・・見つかった。これに違いない。これに決まっている。あの女が欲しかった情報はこれだったのか!
 短編260篇、長編100篇。1人比較文学ができる作家は稀有だろうねぇ。280円。