2008年02月02日「浮雲」

カテゴリー中島孝志の不良映画日記」

 最近、妻が夫を刺した、愛人に刺殺されたとか、痴話げんかの果ての殺傷事件が絶えませんね。

「ホント、物騒な世の中になったよな」
「他人事じゃないわね」
「えっ?」

 目だけが笑っていない妻の顔。手には包丁。ぎゃーっ! おおこわっ。ちびりそうやで。

 さてさて、この作品、好きなんです。最近、とみに好きになってきました。どうしてかなぁ。
 20代ではピンと来ないやろね。30代? どうかしらん。50〜60代で、「そうそう、そうなんだよ」と感情移入できるとしたら、艶っぽくて幸せな人生だったのねと羨ましく感じるな。

 『夫婦善哉』はめちゃ明るい。人生ケセラセラ。これはちと違いまんねん。
 けど、どちらも糸の切れた凧のような男に翻弄される女が主人公です。

 映画の中では、女は苦労してるほうがきれいに見えますな。けど、現実ではまったく逆。苦労すると早よう年取ってしまいますなぁ。若い間はどうにでもなりまんねん。男も女も50歳からどう変わるかやねぇ。

 名匠成瀬巳喜男の傑作。原作は『放浪記』の林芙美子。このコンビでは『めし(原節子主演)』もええなぁ。
 

むかしの女優は気品がありましたな。

 主人公は高峰秀子さん演じるゆき子。男運のない女でね、これが。どうしようもない男に惚れちゃうわけだ。
 その男ってのが森雅之演じる富岡。農林省の技師なんだけど、女で身を持ち崩す優男。
 ほら、いるでしょ? 「女にはまったく興味ありません」てな顔してるけど、実は稀代の女好き。あれあれ(おまえのことか? ほっとけ!)。

 出会いは南部仏印。懐かしいねえ。仏印、仏印と言うんだけど、なんじゃこりゃあって人も少なくないでしょう。まっ、ベトナムのことですな。

 戦時中、女は義兄に犯されてタイピストとして南仏に渡ってきたのさ。で、男と恋仲になる。男は現地妻もいるんだけどね。
 
 女は日本に戻って男を訪ねます。すると、男には妻がいた・・まっ、よくあるパターンですな。で、怒って別れちゃう。女は米兵相手のオンリーになっちゃう。
 でもね、男が訪ねてくるとコロッと変わるんだ。悪態付いてるんだけど、また愛し合う。で、また別れる。また愛し合う。この繰り返し。

 腐れ縁? そう、典型的な腐れ縁。延々と死ぬまで続く腐れ縁。

 そうか、この腐れ縁に共感できるかできないか、体験を共有できるかどうか。これがこの映画のキモなのかもしれませんな。

 この男、モテるんだよ(ハマの舘ひろしもびっくり)。2人で温泉に行っても、そこで知り合った亭主持ちのダンサーと恋仲になっちゃう。
 そのダンサーは亭主に殺されちゃうんだ。で、この男も新聞沙汰になって官吏を追われてしまうわけさ。

 無一文のダメ男。ぷー太郎。ニート。ホームレス寸前。でもね、救う神あれば拾う神ありさ、人生は。

 こういう優男ってのは女が放っておかない。インチキ宗教でしこたま儲けてる義兄の愛人になってた女が、どっさりお金もって飛び込んでくるの。

 そんなこんなで、男の奥さんが死にます。男は葬式代を借りに来ます。

 女はもう逃すまいと男に付いていきます。

 男は屋久島の営林署の仕事を見つけます。女は病気でね。みずれ降る中、止めときなっていう周囲の声も聞かず、船に乗って行くんだ。
 そして、男が山に入ってる間に1人で死んでいくわけさ。

 男は泣きながら死化粧を施してやる・・・あれれ、これ、キムタクと常盤貴子の「Beautiful Life」のラストシーン?

 脚本が巧いねぇ。なんたって水木洋子だもの。松本清張が絶賛してただけあるわな。ほんに傑作やねぇ。何回見ても飽きまへん。見ておくれやっしゃ。