2007年10月06日「失敗の予防学」 中尾政之著 三笠書房 1560円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

「失敗百選」の著者(東大大学院教授)による1冊。失敗学の創始者畑村洋太郎さんの後継者による力作だ。

 中尾さんは元々、日立金属で磁気ディスク生産設備の開発をしてた設計屋。だから、ビジネスの世界にも詳しい。畑村さんも元々、日立製作所の設計屋。
 畑村さんの名前を一躍、全国区にしたのは「失敗学」。

 失敗学とは、いまや学会もあるほどメジャーになったけど、事故やトラブルの事例を集めて、「知識化」「教訓化」することで失敗の再発を防ぐだけでなく、逆に失敗しないようなスキルやノウハウを積み上げて、質の高い仕事をするための絶好のチャンスにすることもできる。
 簡単に言えば、「他山の石にする」「人のふり見てわが振り直す」「愚者は体験に学び、賢者は歴史に学ぶ」といったところか・・・。

 人間に失敗は付き物だが、失敗をめぐっていろんな人間ドラマが繰り広げられるところが、これまた、人間と失敗の微妙な関係ともいえる。

 たとえば、さっとさとディスクローズすれば小火で済んだのに隠してしまう。そして、致命傷にしてしまう。こんなことが少なくない。
 無知、無視、過信という3悪人もある。

 タイタニックにしても、絶対に沈まない過信があればこそ、救命ボートをきちんと準備していなかったわけだし、9.11の貿易センタービルにしても、絶対壊れないという地震があればこそ非常階段の数は少なくなるし、絶対に燃えないと考えたからこそ柏崎原発には構内常備の消防車がなかったわけだ。

 失敗学といえば「ハインリッヒの法則」、すなわち、「1:29:300の法則」が有名だ。これは、1929年に、損害保険会社のエンジニアだったハインリッヒが5000件ものデータから導き出したもので、1件の重大事故の裏には29件のかすり傷程度の軽い災害があり、その裏には300ものヒヤリ、ハッとする体験がある、というものだ。

 もちろん、ビジネスパーソンはこんなにたくさんの事例を必要としない。ヒヤリハットするような体験を2件もすれば、将来を考える。自分のやったヒヤリハットと、他人のやったヒヤリハットの類似点を理解できれば、将来起きるかもしれない失敗を予測し対策を講じられる、というわけだ。

 著者は本書で技術屋の失敗を引っ込めてあえて、経営者、ビジネスパーソンの失敗事例を集め、解析し、そこから知識化・教訓化を試みている。
 なんといっても、ナレッジマネジメントのために22の法則をビジネス事例をまじえて解説してあるからわかりやすいことこの上ない。
 いったい、どんな法則かというと、「他山の石の法則」「慢心の法則」「隠蔽の法則」「対処療法の法則」「外れ値の法則」「虻蜂取らずの法則」「ブランド最優先の法則」「急がば回れの法則」「油断の法則」「偶然→必然の法則」「過剰適応の法則」・・・等々、ユニークなものばかりである。

 重要なことは、失敗を素直に認め、データとして解析し、それをみなで活かせるように「知識化」「教訓化」=ナレッジマネジメントにすることだ。そのためのレポート法、知識化・教訓化法を著者は詳しく紹介している。
 ありがたいことに、コピーすれば使えるシートまで用意してあるから、あなたの会社でもナレッジマネジメントに挑戦しよう思えば、これを使わない手はないだろう。300円高。