2008年12月29日「道」再び

カテゴリー中島孝志の不良映画日記」

 好きだなぁ、この映画。学生時代も含めると、たぶん30回以上は見てると思うな。
 年末年始の特急仕事が2冊。2009年はちと大きな仕掛けがあんだよね。ま、そのうち、わかると思うけど。で、かなり忙しいにもかかわらず、忙しくなればなるほどこういうの引っ張り出しちゃうのよね。
 クビを絞めることがわかってんのにさ。

 道。いったいどこにつながってるのやら。イタリア語では「la strada」。そう、パナソニックのカーナビのブランド名よ。ここからとったんだろうな。
 
 「同行2人」という言葉をお遍路さんはよく言うよね。
 1人でも2人、3人旅なら4人。弘法大師がついてる道行(みちゆき)。だから「道行2人」でもあんのよ。
 
 さてと、主人公ザンパノ(アンソニー・クイン)は「鋼鉄の肺」で売ってる大道芸人。といっても、粗鉄の鎖を力任せに引きちぎる芸ね。
 粗野で愚かで暴力を奮うことでしか自己表現できない不器用な男。バイクに小さな小屋をつけて、村から村へと歩く貧しい旅芸人。

 ジェルソミーナ(ジュリエッタ・マシーナ)は、ザンパノに1万リラで買われた女。ザンパノの仕事の手伝いをする天真爛漫な女。
 ザンパノとの旅生活は辛いことばかり。だって、優しさの欠片もない男だもん。何の芸もできないから、バカにされ、穀潰し扱いされるけど、ほかに頼る人間はいない。ザンパノ、ザンパノと頼るしかないんだ。
 それにしょせんは男と女。一緒に旅を続けているといつの間にか親愛の情が湧いてくる。

 ザンパノはそんな気持ちなんかこれっぽっちもわかりゃしない。旅先で女とすぐに親しくなる。服をくれたり食べ物をくれる女とはすぐに寝る。それが嫌でジェルソミーナはいつも1人で街を彷徨う。

 その夜、華麗な芸を披露する綱渡りの男と出会うんだ。この男はザンパノとは犬猿の仲。綱渡りはザンパノと会うと、なぜかからかいたくなる。で、いつも喧嘩する。

「私なんかなんの役にも立たないの」と嘆くジェルソミーナ。
「この世にあるものはすべて何かの役に立ってる。この小石だってそうさ。おまえに芸を教えてあげよう。どうしてザンパノなんかと暮らしてる? 逃げたくないのか?」
「何度も逃げた。そのたびに殴られた」
「どうして、ザンパノはおまえを捨てない? 俺だったら1発で捨てるのに・・・そうか、ザンパノはおまえに惚れてるんだな」
「えっ、この私を?」

 綱渡り芸人はジェルソミーナにラッパを教えてやります。これがなんとももの悲しいメロディなんだ。

 仲のいい2人をやっかんだザンパノは、綱渡りとまたまた喧嘩。警察まで来る大騒ぎ。で、2人ともサーカスから追い出されてしまうんだ。
「ザンパノと別れてうちにおいで。食べさせてあげるよ」とみなに言われるジェルソミーナ。けど、警察署の前でザンパノを待つ。ここまで送ってくれたのは綱渡りの男だ。

 ザンパノとジェルソミーナは次の村に行く途中、修道女を乗せ、そのまま教会に泊まらせてもらいます。その夜、ザンパノは銀製のキリスト像を盗んじゃうのね。最後まで反対するジェルソミーナ。自分たちの行為が恥ずかしくて、修道女には目を向けられない。

「ここで暮らせるように頼んであげる」
「ううん、できない」
「いつも旅なの?」
「そう、あなたは?」
「2年おきに教会を移るわ」
「なぜ?」
「土地に愛着が湧いたら、神様に仕えられないもの」

 愛着は未練の別名だものね。

 次の村に急ぐ旅。途中でパンクで困ってる綱渡り芸人に会う。
「手伝ってくれよ。いつか、手伝うからさ」
 ザンパノはいきなり綱渡りの顔面にパンチを2発お見舞。打ち所が悪くて綱渡りは死んでしまう。

「だれにも見られてない。心配するな。殺す気はなかったんだ」
「彼の様子が変よ」と壊れたように繰り返すジェルソミーナ。

「ここがいい」と雪の降る中、ジェルソミーナは旅を止める。「俺には生きる権利がある。メシ代を稼ぐにはこんなところにはいられないんだ」
「あなた、わたしがいなければ独りぽっちよ」
「たった2発で刑務所なんてまっぴらだ」
「彼の様子が変よ」とまた泣き出す。

 ザンパノは壊れたジェルソミーナをここに捨てます。

 それから4〜5年の月日が過ぎます。初老になったザンパノは相変わらず「鋼鉄の肺」の芸で糊口を凌ぐ大道芸生活。海水浴場で稼ぐ合間に街を散歩していると、どこからともなく、あのメロディが聞こえてくる。
「いったいどこから?」
 耳を凝らすと、村娘が洗濯物を乾しながらハミングしている。
「そのカンツォーネは?」
「あぁ、あなた、サーカスの人ね。昔、ある女の人がよくラッパを吹いてたの」
「その女は?」
「死んだわ。高熱を出して弱ってたので、私の父が家に連れてきたの。ご機嫌のいい時はあの砂浜でラッパを吹いてた。昔、旅芸人をしてたとか」
「・・・死んだのか」

 その夜、ザンパノはしたたかに酔っては喧嘩する。「俺は1人でたくさんだ」と呟きながら、ジェルソミーナが愛した砂浜にやってくる。
 そして号泣する・・・。

 なぜ泣いたんでしょうね? ワルならワルらしくエゴを貫徹すればよかったものを・・・後悔? 罪悪感? 無くしたものの大きさに気づいた?

 ジェルソミーナは、なんの見返りも要求しなかった。ザンパノにいつも殴られ、いつもバカにされ、いつもほかの女と大っぴらに浮気され、いつもモノ扱いされた。にもかかわらず、彼女はザンパノにいつも真心を込めて尽くした。
 
 腐れ縁? 純愛? 献身?
 
 ジェルソミーナに自分はいったい何をしてやった? 何もしてやらなかった。してやろうと思えばいくらでもできた。けど、ジェルソミーナのことなんて視野になかった。いつも自分のことで精一杯だった。
 利用するだけ利用して・・・ただ1人の「味方」を捨てた。

 初老の入口に差し掛かり、ザンパノはこれからも生きていかなければならない。どれだけ生きるのかわからない。「鋼鉄の肺」もどれだけもつかわからない。たった1人、孤独を噛みしめながら生きていかなくてはならない。

 人間、元気なうちは気づかない。持っている間は気づかない。恵まれている時は気づかない。なくしてはじめてわかることってありますね。もう取り返しはつかないけど。 
 ザンパノは・・・私ですね。