2006年12月26日「いま、胎動する落語」 春風亭小朝著 ぴあ 1680円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 たしか前著の「苦悩する落語」もここで紹介したと思うんですけど、これは第2弾になるんですね。
 なんと6年ぶりだってさ。
 てことは、ホームページの時代だよね。

 いろいろ苦悩してるんですなぁ。小朝さん。落語協会の理事も辞めちゃったでしょ。
 若手が理事になれる体制へと協会自身が変化しつつある。これなら大丈夫だ、と判断したのかも。

 私、アナウンサーの世界と、この落語家つうか漫才師も含めてですけど、「芸人世界は嫉妬の世界」だと思ってるんです。
 女子アナじゃありませんよ。男性アナでも嫌らしい(それだけに人間的な)嫉妬、足の引っ張り合いが渦巻いてるんです。

 昔、某国営放送から民放に移ったアナがいましてね。看板アナとして活躍してたし、他に役職を兼務したりして、局内を肩で風を切って歩いてました。
 けど、この人、落ち目になると、もう大変。
 若手、同僚の悪口のオンパレード。その他に口に出ることといえば、過去の栄光、自慢話だけ。なんて内容のない人なんだろう、と正直、呆れてしまったことがあります。

 仕事がら、いろんな著名人と会ってきたでしょうに。
 不思議なことに、アナの本、アナの講演会では「?」ばかり。しゃべりは上手いんだろうけど、中身はからっぽ。不思議ですね。

 そうか、この人たちはビジネスパースンじゃなくて、タレント、芸能人なのだ。みな、「スター」になりたいんだ。だから、周囲の人はみなライバルなんだな。
 ライバルが失敗すれば、自分にチャンスが・・・「大奥」になりますわなぁ。

 で、本書ですが、小朝さんは若くして真打ちに抜擢され、落語だけにとどまらず、いろんなフィールドで活躍。それだけに逆風も強かったと思います。
 となると、後ろ指を指されないように芸に精進してきたとも思いますね。

 いま、協会の理事を降りてますけど、「6人の会」とか「大銀座祭り」とか、もっと大きく仕掛けなければならないことがありすぎる。理事としてよりも、いまこそ別働隊、遊撃隊として縦横無尽に動かなくちゃ、と判断したんじゃないかなぁ・・・。
 落語会全体を視野に入れて仕事ができる。落語の未来にも目配せがきちんとできる。

 たとえば、この元旦、日テレでは朝から「笑点」をやります。TOKIOも出ずっぱりですよ。TOKIOなんて、長瀬が「タイガー&ドラゴン」、国分が「しゃべれどもしゃへれども」(来年夏封切り)、そして山口が「三平物語」の主役を演じた、というように落語とは切っても切れない関係。
 で、元旦の笑点でも芸能人に大喜利をさせたり、落語を一席させたり。

 これを小朝さんは「特番」として仕掛けたいわけ。いずれ、レギュラーにしたいの。
 といっても、テレビは短気のお客さんが多いからね、ゆっくり前振りなんてやってられない。チャネル換えられちゃうからね。
 で、前段をプロが30秒くらいでささっと噺しちゃう。クライマックスだけを芸能人にさせちゃう。

 芸能人で落語好き、多いもの。風間杜夫さんなんて紀伊国屋ホールで噺してるしね。荻野アンナさんも野毛のにぎわい座で披露してます。

 たとえば、長澤まさみちゃん、沢尻えりかちゃん、堀北真希ちゃん、上戸彩ちゃんが落語をする・・・こりゃ、絶対見ますわな。

 こんな仕掛けを、内心、苦々しく思ってる人もいないわけじゃありませんよね。席亭に足を運んでくれるお客さんだけに聴かせる噺でいいんだ。笑いの偏差値の低い女子高生なんかに聴かせる噺はねぇ。テレビのお客なんてお客じゃねぇ・・・とかね。

 たしかに落語はバカでは笑えません。漫才のほうが「簡単に」笑えます。
 けど、売れっ子の噺家はどんなバカでも笑わしますよ。「落語ってマジ笑えるぅ」って言わせたもの勝ちなんですよね。でないと、無形文化財になっちゃいますもん。
 
 いま、小朝さんは戦ってるんですよ。「6人の会」ってのは、ある意味、「落語界の全共闘」みたいなもんなの。
 かつての全共闘の戦術、知ってます?
「一点突破全面展開」でしたよね。ほら、小朝さん、いま、それやってんじゃん。280円高。