2009年05月13日「それでも、平成恐慌はありません。」 長谷川慶太郎著 WAC 880円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 金融危機は終わった。ただし、金融危機のあとの消費縮小が起こる。これによる不況は避けられない。結果として、小売業全体のマイナスは09年以降も進みます。

 打撃を受けるのは中国。21世紀に入ってから鋼材生産が1億トンずつ増加してますけど(日本全体の生産量と同じ)、建築ブームの終焉により、今後、毎年1億トンずつ減少していくことになります。

さて、今回の金融危機のベースにあるのは、今世紀に入ってから本格化している「デフレ」です。

 余剰資金が運用の場を求めて世界の金融市場で動きまわる。結果、運用対象が拡散し、あのサブプライムローンを証券化した金融商品までかせ投資対象となってしまった、というわけです。

 21世紀の特徴は戦争のない時代。経済面では今後も「デフレ」以外はあり得ないんです。

 ところで、今回の金融危機がかつてのそれと根本的に異なるのは、1つはそのスピードにあります。

 世界恐慌や2度のオイルショックの時でも、スピード感は「じわじわ」でした。けど、今回はリーマン・ショック以後、突然、急に、いきなり不況になりましたよね。景気にいきなり急ブレーキがかけられたわけです。

 こういう危機管理では、経営者は対処療法で舵取りをするしかありません。たとえば、会社を救うために派遣労働者解雇はやむを得なかった、というわけです。
 派遣労働者は契約解消と同時に、収入と住居の両方を失います。しかし、彼らのセイフティネットは政治が考えなければならないテーマで、経営者が考慮する分野ではない。景気のいいときには成立したビジネスモデルでしたが、今後、不況時にも成立する新たな派遣制度が必要になります。しかし、それはあくまでも政治のテーマ。セイフティネットも政策的に整備すればいいわけです。

 なぜならば、失われた10年以降、日本企業は労務費を可能な限り低賃金にできる「緩衝材」として活用してきました。これが「不況対応力」として機能してきたからです。

 デフレ基調で国際間の販売競争はさらに激化しているのが現実です。
 中国が高い成長率を誇れたのも、13億人を超える安い労働力あればこそ。貧しい生活を強いられた農民のおかげです。中国全体の輸出の3割以上を担っていた広東省など、09年1月26日の旧正月を前に、例年とは異なり、労働者の帰省期間が大幅に繰り上がりました。出稼ぎ労働者800万人のうち200万人は解雇されました。倒産企業は67000件。帰省するしかないんです。
 中国政府はこの大量の失業問題が、社会不安、政治不安を引き起こしかねないことを憂慮しています。

 中国とは比較にならない日本が、消費不況を乗り切るには率先して生産コストを引き下げるための懸命な努力が必要なんですね。
「たっぷりある余剰資金、社内留保を吐き出せ。余力があるのに派遣労働者を切るとはなにごとだ!」
 この説は人道的に聞こえますが、ナンセンスです。余力を失っ
企業は雇用を確保できないばかりか、競争に敗れて倒産するしかないからです。そうなれば、さらに深刻な事態が日本を襲います。

 もし派遣切りや派遣雇用を一切禁じるならば、企業のコストはさらに上がります。生産調整もできずに売れない商品を作り続けることになります。
 派遣切りは企業の自衛手段としてだけでなく、生産工場を国内に維持し、世界でもっとも質の高い製品を低コストで生産するための絶対条件でもあるわけです。

日本は高卒まで含めて、労働市場に新規参入する人材は30万人しかいません。大量の失業者が出るようなことはないのです。さらに少子化がフォローの風にすらなります。

 今回の金融危機は、徹底した国際協調を前提として考えられています。
 サブプライムローン問題など実はたいした問題ではなく、大問題はCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)にあります。これは企業の債務不履行を対象にした保険で、保険期間は短いものは半年。長いものなら5年です。
 この金融商品は規制の網がかかっていません。値段も決まっていません。サイン1つで巨額の保証料が手に入ります。保証される側は保証を盾にさらに借金を重ねられます。

 CDSの市場は07年末に62兆ドルにも膨れあがりました(米国のGDPは14兆ドル)。
 AIGは資産6300億ドル、債務6100億ドル。本来は黒字のはずが、CDSの隠れ債務が4000億ドルもありました。リーマンブラザーズは破綻させ、AIGには850億ドルもの融資をした理由はこのCDSという時限爆弾が世界の金融市場に甚大な悪影響を与えること必至だったからですね。

 さて、本来ならば、米国発の金融危機ですからドル売りドル安にならなければならないところ、ドル安は円に対してのみです。
 東証の全売買のうち60%が外国人投資家です。彼らは日本株を円で売ってドルに換えていました。円キャリーというシステムの結果、ドル安にはなりませんでした。円キャリーの巻き戻しはせいぜい3兆円が限度ですから、一時的に円高ドル安になったところで、1ドル60〜70円になることはありえません。 

 金融危機は終わりました。日本のおかげです。
 中小国の駆け込み寺IMFは一種の株式会社で、出資した金額の150%をトランスファー・クレジットとして融資してくれます。いま、ハンガリー、ウクライナ、デンマーク、アイスランドなどが貸し付けの申込みをしています。その額3500億ドル。しかし、IMFのスタンバイ・クレジットは2000億ドルしかありません。

 そこで日本が外貨準備の1割、1000億ドルを融資したわけです。日本様々です。

 日本企業は、米国特許庁の調査でも、96年以降、特許所得の長者番付は上位10社のうち日本企業6社、米国3社、韓国1社(サムスン)となっています。
 サムスンは韓国全体の研究開発費の1割を独占してますけど、それでもトヨタ1社の10分の1に過ぎません(つまり韓国の総額はトヨタ1社分ということ)。日本は米国で取得した特許件数は25%もあります。

 機械工業の中心である工作機械など、1982年以降、日本は世界一を続けています。
 82年には日本12%、ドイツ11%、米国8%でしたが、05年には日本27%、ドイツ11%、米国1%と差は開く一方です。米国の凋落は激しく、いまや、あのGMは342台のプレス機がすべて日本製(IHI)です。機械の維持、管理、修理で年間1億2千万ドルが日本企業に入ってくるのです。この技術力があればこそ、日本の時代はさらに続くのです。300円高。



 どうでもいいけどさ、「チビ丸子ちゃん」て名前、『母をたずねて3000里』のマルコからとったんじゃないかねえ。