2007年01月29日「迷いと決断」 出井伸之著 新潮社 735円 

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 ソニーの元CEOによる本ですな。かなり、本音で赤裸々に書いてますよ。
 いいの、こんなこと書いてって。

 そういえば、大賀さんからは、彼が社長の間に新商品は一つも出てないとか、文藝春秋では元常務から非難されるし、四面楚歌みたいだったもんね。
 けど、反省も含めて是々非々できちんと書いてます。もちろん、学ぶところも多いです。掛け値無しで読むべき本だ、と思いますね。

 出井さんというのはソニーで最初のプロ経営者なのよ。
 どういうことかって?
 だって、それまでの経営者は井深さんであり、盛田さんであり、大賀さんでありって、創業者に連なる人たちでしょ。まったく縁もゆかりもない社長というと、この人が最初なの。

 これはやりやすい面もあればやりにくい面もありますよね。「会長が言ってる」というひと言で、従業員が納得するカリスマはありませんもの。

 00年にCEOを安藤国威さんに譲ります。これ、人生最大の失敗だ、と述べてます。大賀さんが役員定年で辞めたので空いた会長職に自分が就けば、ファウンダー世代の空気を完全に払拭てせきると考えた人事だったわけ。
 けど、ソニーの改革を考えたとき、大賀さんにもっととどまってもらって、自分が采配をふるった方がベターだったと反省してるんですね。
 これは正解だと思いますね。

 また、ソニー生命の処理についてもそう。
 エレクトロニクス本体の足腰を強化するために、ソニーにおける「サイドビジネス」を売却するつもりだったわけ。ところが、お客からみれば、ソニーという信任状があるからこそ契約した、という人もいるわけ。
 で、この問題で迷走します。最悪はこの計画を白紙撤回しちゃったこと。

「経営に妥協は禁物です。1度やると決めたら、まして表明してしまったら、どんなことがあっても実行しなければ逆に信頼感を失います」
 フォーチュンなど、出井は正しい決断をしながら、それを執行しなかった、と書きました。

 ソニーの売上を月間にすると6000億円になるわけ。
 いちばんむずかしいのは「時間軸の誤謬」だったそうですね。当然起こるはずだと見込んでいたことがなかなか起こらない。まだ来ないだろうと予測していたことがあっという間に来てしまう。
 この時間軸の判断が少し遅れただけで、結果としては、1〜2年の遅れがすぐに生じてしまうんです。

 97年発売のフラットトリニトロン「WEGA」が大ヒットしました。98〜00年の間、ソニー圧勝でしたよね。12%のシェアが25%に達し、松下を抜いちゃいました。
「これで次の競争に出遅れるのではないか?」
 その通りになります。シャープは液晶、松下はプラズマ、ソニーはプラズマトロン。それがトリニトロンで成功していたために次への切り替えがしにくくなる、と読んだわけ。

「あの時、プラズマトロンというトップラインを止めてよかったのだろうか・・・」
 液晶は続いてもあと10〜15年。長期的な戦略として生かしておく選択肢もあったのでは?

 出井さんソニーのパソコンビジネスの先駆者なんですよね。で、最初は事業としては失敗します。けど、この時の財産、すなわち、技術者、技術、それからアップルとかの人脈・・・VAIOの成功につながっていきます。

 経営というのはむずかしい。しかし、シンプルです。どの選択肢を選んでも悔いが残る。結果オーライ。しかし、時間が経つと、成功が失敗になり、失敗が大成功へと変わったりします。
 経営はオセロゲーム。
「成功するまでやれば必ず成功する。失敗とは成功する前に止めることである」
 これ、松下幸之助さんの言葉。出井さんもつくづく噛み締めているんじゃないかな。