2007年03月12日「壬生義士伝」

カテゴリー中島孝志の不良映画日記」

 「大好きな父上を、たったひとりで三途の川さ渡すわけにはいがねがんす」
「旦那様、ご苦労様でがんした。わたしたちのために銭っこ貯めてくだすって」

 映画「壬生義士伝」のラスト部分の1シーンですね。父上、旦那様とは吉村寛一郎という南部盛岡の下級武士。

 この映画は先週ご紹介した「幸せのちから(ウィル・スミス主演)」の日本バージョンといってもいいでしょう。

 飢饉が続き、数千人の餓死者が出た南部盛岡。
 寛一郎の一家も食うや食わず。3人目の子供を身ごもった妻は堕すために川に入ります。
 意を決した寛一郎は、家族を守るために脱藩して京にのぼる。そして、新撰組に入る。もちろん、金のためですよ。

 腕は立つが、異様なほど金に執着を見せる吝嗇家。昇進すると、「いくらもらえるんでがんす?」。介錯の役目を仰せ使うと、「刃こぼれがしたす。刀の修繕代を・・・」と催促する始末。
 「おまえは武士か?」と周囲の隊士に笑われながらも、せっせと貯めては国元に送金する。

 「南部盛岡ほど美しいところはないでがんす。嫁っこは南部一の美しさでがんす」
 酒が入れば相手がだれだろうと、お国自慢と女房自慢、子供自慢を延々と語る田舎侍。

 「おまえは武士か?」

 たしかに武士としては完璧じゃなかったけど、人間として、父としては完璧以上の人物だったね。

 原作は浅田次郎さん。で、映像は映画版とテレビ版があんだよね。
 映画版は中井貴一さんと佐藤浩市さんの主演、松竹ね。テレビ版は正月に8時間もの長編ドラマ大作。渡辺謙さんと竹中直人さんの主演。どちらもテレビ東京が絡んでます。


これ、お勧めです。

 比較するのもなんなんだけど、私、映画のほうが好きです。
 中井貴一さんがなんとも言えない味を出してるんだよねぇ。剽軽で、それでいて哀切があって、抜けていて、それでいて鋭かったりね。
 渡辺謙さんはいまや、押しも押されもしない国際的スター。だけど、この役は中井さんにぴったりなんだよね。中井さんは喜劇ができる役者だよ。

 佐藤浩市さん演じる老人(元新撰組幹部)が狂言回し。孫の病気でたまたま町医者を訊ねるんだ。引っ越し最中なのね。で、ここに1枚の写真があんだよ。
 それは新撰組が記念撮影した時、「タダだよ」と聞いて撮ってもらった吉村寛一郎の写真なのね。 
 どうして、これがここにあるのか? 孫は女医に任せ、主人と老人は問わず語りにそれぞれ話し出すわけさ。

 親父は辛いよ。いま、結婚しない人、子供が欲しくないという人が増えてるらしいけど、その気持ち、わからなくもない。一家をかまえる義務とか責任て大変なんだよね。

 私、今後、結婚とか婚姻とかにとらわれない恋愛形態が増えてくると思うな。事実婚もその1つのバリエーションだけど、いろいろな意味でもっと自由化されてくると思うよ。

 「壬生義士伝」は、日本の親父全員に観てもらいたい映画であり、小説だと思う。きっと浅田次郎さんが父親を想う気持ち、子を思う父親、妻を思う夫。つまり、男の悲哀、男としての使命観を謳いあげたものだからだと思うんだけど、どうだろう?

 「おもさげながんす、おゆるしえってくだんせ」